トラブル①:相続人のなかに行方や連絡先がわからない人がいる
相続人のなかに行方や連絡先がわからない人がいると、相続手続が滞ってしまうことがあります。
特に遺言書が残されておらず、遺産分割協議が必要な場合、相続人全員の合意が取れないために、手続を完了できません。
対処法
相続人のなかに行方や連絡先がわからない人がいる場合は、以下の方法で対応します。
①戸籍の附票から住所(連絡先)を調べる
行方のわからない相続人の「戸籍の附票」を取得します。戸籍の附票には、その方の住所が記載されているので、その住所宛てに手紙を送るなどして連絡を取ってみましょう。
なお、戸籍の附票は役所で申請をすれば取得することができます。
②不在者財産管理人を選任してもらう
住所が判明しても連絡が取れない場合には、「不在者財産管理人」の選任をしてもらいましょう。
不在者財産管理人とは、「行方不明になっている人の財産を適切に管理する職務を負う人」のことで、申立てに応じて裁判所が選びます。
不在者財産管理人が選ばれたあとは、その方との間で遺産分割協議を進めることが可能です。
行方不明から長期間が経過している場合
行方がわからないまま、その生死が7年間明らかでないときには、家庭裁判所の判断によって「失踪宣告」がなされる場合もあります。失踪宣告がなされた相続人は、法律上亡くなったものとしてみなされます。
不在者財産管理人が選定された場合は、相続関係に変化はありませんが、失踪宣告では相続権がほかの相続人に移行するかたちになるため、相続関係を再度整理する必要が出てきます。
トラブル②:特定の相続人が遺産を独占している
各相続人には、一定の遺産を取得できる権利(相続権)が法律によって定められています。
1人の相続人が勝手な理由で遺産を独り占めすることは、その権利を侵害することになるので決して認められません。
対処法
置かれている状況に応じて、以下の対応を行いましょう。
①遺産の独占を主張している場合
相続人全員で遺産分割協議を行い、公平な分割になるよう話し合います。
話合いがまとまらないようであれば、「遺産分割調停」に移行し、裁判所に間に入ってもらうことで、解決を目指すことになります。
②遺言によって指定されている場合
遺言によって偏った分割割合になっている場合、「遺留分」が侵害されている可能性があります。
遺留分とは、各相続人に対して保証された最低限の取り分のことです。法律によって定められた遺留分の割合は以下のとおりです。
この遺留分を超える割合で配分が指定されていた場合、「遺留分侵害額請求」をすることで、侵害された金額を取り戻せる可能性があります。
ただし、相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知ったときから1年、あるいは、相続開始から10年経過すると、時効または除斥期間の経過によって請求権が消滅するため、請求する場合はできるだけ早く行動すべきです。
③すでに遺産が使い込まれている場合
裁判を起こして、相手に使い込み分を請求します。具体的には、「不当利得返還請求」または「不法行為に基づく損害賠償請求」を行います。
不当利得返還請求とは、法律上の原因なしに利益を得た人に対して、その利益分を返すように請求することです。一方、不法行為にもとづく損害賠償請求は、相手の不法行為によって生じた損害について、賠償を求めることです。
ただし、不当利得返還請求は請求できることを知ったときから5年、不法行為に基づく損害賠償請求は損害および加害者を知ったときから3年が経過すると、時効によって請求できなくなります。
トラブル③:特定の相続人が生前贈与を受けている
たとえば、被相続人に2人の子ども(長男、長女)がいて、長男にだけ住宅資金を援助し、その後亡くなったとします。
このとき、遺産相続の割合が2人の子どもで同じだった場合、長女からすれば不公平な分割になってしまいます。
対処法
不公平な分割内容を防ぐためには、生前贈与が「特別受益」とみなされないか確認してみましょう。
特別受益とは、特定の相続人が遺贈や贈与によって、被相続人から受けた利益のことです。基本的には、以下の生前贈与分が対象とされています。
- 婚姻のための贈与
- 養子縁組のための贈与
- 生計の資本としての贈与
- ※ 贈与内容によっては、特別受益とみなされない場合もあります
もし特別受益にあたるなら、生前贈与分も考慮して各相続人の取り分が調整されるため、不公平な分配内容になるのを防ぐことができます。
【特別受益による調整例】
遺産総額:2,000万円
相続人:A、B
Bへの生前贈与:500万円
↓特別受益として計算
遺産総額:2,500万円
相続割合:A、Bで均等に分割
Aの取り分:1,250万円
Bの取り分:1,250万円(本来の取り分)-500万円(生前贈与分)=750万円
トラブル④:特定の相続人が生前に被相続人の介護をしていた
被相続人の介護をしていた相続人からすれば、「頑張って支えていた自分の取り分が、ほかの相続人と同じ…?」と考えても不思議ではありません。
付きっきりの介護など、自分の生活や時間の大部分を犠牲にしていたのであれば尚更です。
対処法
被相続人の生前に、財産の維持や増加などに貢献した人は、その貢献度に応じて遺産を多くもらえることがあります。
これを「寄与分」といい、認められるためには以下の条件を満たしている必要があります。
- 相続人自らの寄与がある(寄与行為)
- 通常期待される程度を超えた「特別の寄与」を行った
- 寄与行為により、相続財産の維持または増加に貢献した
介護による貢献も、その程度によっては寄与分が認められることがあります。
寄与分が認められると、遺産の分割割合も調整されるため、注意しなければなりません。
【寄与分の計算例】
遺産総額:1,000万円
相続人:A、B
Bの寄与分:200万円
↓寄与分を考慮して計算
遺産総額(寄与分を除外):800万円
相続割合:A、Bで均等に分割
Aの取り分:400万円
Bの取り分:400万円(本来の取り分)+200万円(寄与分)=600万円
トラブル⑤:特定の相続人が被相続人の財産管理をしていた
相続人のなかに被相続人の財産を管理していた人がいる場合、たとえば財産の使い込みを疑われるなど、相続人同士でトラブルに発展する可能性があります。
対処法
そういったトラブルの発生を防ぐには、以下のような方法が考えられます。
- 財産を管理していた人が入出金の詳細な記録をつけておく
- 任意後見人制度を利用する
任意後見人とは、被相続人の判断能力が衰えた場合に備えて、あらかじめ選ばれた後見人のことです。
任意後見人には、別途選ばれた任意後見監督人(※)に対して、財産状況などを定期的に報告する義務があります。そういった状況であれば、使い込みなどの不正が行われることは考えづらいため、相続人同士でトラブルに発展することもないでしょう。
- ※ 任意後見人が、任意後見契約の内容どおりに適正に仕事をしているか監督する人
トラブル⑥:被相続人に前妻と子どもがいる
まず前妻については、相続権が発生しないため特に問題は起きづらいでしょう。
一方、子どもには相続権が発生します。たとえ前妻との間に生まれた子どもでも、法律上はほかの子どもたちと同じように親子関係が存在するためです。
したがって、もし遺産分割協議が必要なケースなら、前妻の子どもにも必ず参加してもらう必要がありますし、法定相続分に応じて遺産が分配される可能性があります。
しかし、前妻の子どもが遺産分割に関わることで、後妻側と感情的なトラブルに発展するおそれもあるでしょう。
【遺産分割の例】
遺産総額:3,000万円
関係者 | 法定相続分 | 遺産分割の目安額 |
---|---|---|
配偶者 | 2分の1 | 1,500万円 |
配偶者との子どもA | 4分の1 | 750万円 |
前妻 | なし | 0円 |
前妻との子どもB | 4分の1 | 750万円 |
対処法
そうした状況を防ぎたい場合には、被相続人の生前に必ず遺言書を残してもらうようにすべきです。
遺言書があれば、遺産分割協議の必要はなくなるため、上記のようなトラブルには繋がりづらいはずです。
ただし、最低限保証された取り分(遺留分)を侵害することはできないため、「前妻の子には、遺産を渡さない!」ということはできません。
トラブル⑦:相続人のなかに認知症の人がいる
認知症の方は、遺産分割協議で自分の意思を表明することができず、かといって相続放棄することもできません。
つまり、認知症の方が相続人にいると相続手続が滞ってしまう可能性があります。
対処法
そうならないように、対処法としては以下の方法が挙げられます。
①成年後見人を申し立てる
成年後見人とは、本人に代わって財産管理などを行う人のことで、裁判所に申し立てると適正な後見人を選んでくれます。
成年後見人は、被後見人に代わって遺産分割協議に参加できますし、相続放棄の手続も可能です。
ただし、申立ての手続はかなり複雑で、後見人の選任まで3ヵ月程度は見ておいたほうが無難です。相続人のなかに、認知症のおそれがある人がいる場合は、前もって準備しておくほうがよいかもしれません。
②遺言書を残しておく
被相続人が生前のうちにできる対策として、遺言書を残す方法もあります。
遺言書を残しておけば、遺産分割協議は基本的に必要ありません。遺言書の内容どおりに相続が行えるため、たとえ認知症の方がいらっしゃっても、相続手続を進めることが可能です。
トラブル⑧:偏った内容の遺言書が出てきた
たとえば、被相続人に「可愛がっていた次男に遺産を多く残したい」といった希望があり、それを遺言に記載した場合、ほかの兄弟からすれば当然不公平な内容になってしまいます。
確かに遺言書の内容は優先されるべきものですが、どんな内容でも実現できるわけではありません。
法律は、ほかの相続人にも相応の権利を認めていることから、対処する方法がいくつかあります。
対処法
①遺言書の有効性を確認する
出てきた遺言書が有効ではない可能性があります。
遺言書が無効になるケースとしては、「法律上定められたルールに則って書かれていない」、「遺言を作成する際、遺言者に意思能力がなかった」などが挙げられます。
場合によっては、弁護士などの専門家に依頼して「遺言無効確認請求」を検討してもよいでしょう。
②遺留分が侵害されていないか確認する
偏った内容の遺言書の場合、遺留分(各相続人に対して保証された最低限の取り分)を侵害している可能性も十分にあります。
もし自分の遺留分が侵害されているようなら、「遺留分侵害額請求」を行って侵害額を取り戻せるかもしれません。
③相続人全員で話し合い、遺言書に従わない旨の合意を取る
相続人全員の合意があれば、遺言書の内容に従う必要はなくなります。
ただし、自分に有利な相続内容を自ら放棄する人は少ないでしょうから、全員の合意を取ることは難しいかもしれません。その場合は、「遺産分割調停」を行うことになり、裁判所が間に入るかたちで話し合うことになります。
- その他の基礎知識
-
- 相続財産と分け方
- よくあるトラブルと対処法
-
- 財産に関するトラブル
- 家族に関するトラブル