遺言・遺産相続の弁護士コラム

相続手続は自分でもできる?デメリットや自分で行う人の割合は?

相続手続

結論からいえば、相続手続を自分で行うことは可能です。「専門家に依頼しなければならない」といったような決まりはありません。
ただし、自分で行う場合は専門家に依頼するよりも当然負担が大きくなります。またそれだけではなく、手続自体が完了できないということも起こり得ます。

そこでこのページでは、相続手続を自分で行う場合と各専門家に依頼する場合のメリット・デメリットについてご紹介します。また相続手続を自分で行う人の割合や、必要になる費用の目安なども解説しますので、ぜひ参考になさってください。

この記事でわかること
  1. 相続手続を自分で行うメリット・デメリット
  2. 相続手続を各専門家に依頼するメリット・デメリット
  3. 相続手続を自分で行う人の割合や必要な費用は?

相続手続は自分でもできるが難しいケースもある

相続手続は、専門家に依頼せず自分だけで行うことも可能です。
ただし、自分だけで手続できるケースというのは限られていますし、そもそも自分で対応するのは困難なケースもあります。
以下で詳しく見ていきましょう。

自分でも手続できるケース

相続手続を自分でもできるのは、以下のようなケースです。

  • 相続人の数が少ない
  • 相続財産の金額が低い
  • 相続財産の数や種類が少ない
  • まとまった時間を確保できる

たとえば、相続人の数が少なかったり、相続財産の金額が低かったりすれば、相続人同士でもめることが少なくなり、事務手続だけに集中できて進めやすくなります。
また、相続財産の数や種類が少なければ、手続自体の負担も軽くなります。特に不動産や株式などが含まれていると手続が煩雑になりやすいです。

自分では手続が難しいケース

反対に、以下のようなケースだと自分で手続するのは難しいといえます。

  • 被相続人の親族関係が複雑
  • 相続財産の金額が大きく、種類も多い
  • 相続人同士の仲が悪く、もめるおそれがある
  • 手続にかける時間を確保できない

相続手続では、各相続人が自分の思いや利益だけを主張し、トラブルに発展することが少なくありません。そのうえ、相続人が多かったり、高額の財産が残されていたりすると、その可能性はさらに高くなります。
一度トラブルに発展すれば、自分たちだけでは冷静に話し合うことができず、分割手続が長期化するおそれもあるため、早い段階で弁護士に依頼すべきでしょう。

相続手続を自分で行う人の割合や必要な費用は?

自分で行う人の割合

裁判所の発表した統計によれば、2023年(令和5年)に終局した遺産分割事件は、13,872件(※)とのことでした。そのうち、代理人として弁護士が関与している件数は11,170件、割合にすると約80%です。
つまり、残りの約20%は自分で対応していることになります。

もちろん、それ以前に行われる相続手続(財産調査や遺産分割協議など)については別です。しかし、約20%という割合は、1つの目安として参考にしていただくことはできるでしょう。

  • 参考:令和5年 司法統計年報 3.家事編

自分で行う場合の費用

相続手続を自分で行う場合、主に必要になるのは「手続書類の収集費用」や「裁判所への申立て費用」です。

まず「必要書類の収集費用」に関しては、基本的にはどんな状況の方でも必要になり、相場としては数千円~2、3万円程度です。
ただし、相続人の数や相続財産の種類などによっては、必要書類が増減するため、費用もそれぞれ変わってきます。

「裁判所への申立て費用」は、遺産分割の話合いがまとまらず、裁判所を通した手続が必要になった場合に発生します。基本的には、1万~2万円程度を想定されていればよいでしょう。

そのほか、不動産を相続した方は相続登記(不動産の名義変更手続)の申請が必要になり、申請する不動産の価値に応じた登録免許税などが発生します。
また、費用とは異なりますが、相続税の支払いも念頭に置いておく必要もあります。

相続手続を自分で行うメリット・デメリット

相続手続を自分で行う場合、メリットもあれば、当然デメリットもあります。
具体的には以下のような内容が挙げられるでしょう。

【メリット】
・専門家(弁護士や税理士など)に依頼する費用を節約できる
・自分のペースで手続できる

【デメリット】
・慣れない手続ばかりで負担が大きくなる
・手続に時間がかかりすぎて、失敗するおそれがある
・トラブルに発展すると自分だけでは解決しづらい

相続手続を自分で行う場合、専門家に依頼する費用や手間がなくなる反面、手続の正確な方法や必要書類を一から調べて、漏れなく行っていくことになります。
当然、負担は大きくなりますし、手続のなかには期限が設けられているものもあるため、時間をかけすぎるわけにもいきません。そのうえ、相続人同士でもめるようなことになれば、手続どころではなくなってしまうでしょう。

なお、各手続の期限については、以下のページで詳しく解説しています。併せてご覧ください。

相続手続を各専門家に依頼するメリット・デメリット

相続手続を、自分ではなく専門家に依頼して行う場合も、それぞれメリットとデメリットがあります。
自分で行う場合と比較するためにも、専門家ごとのメリット・デメリットを確認してみましょう。

弁護士に依頼する場合

弁護士は、依頼者の方に代わって、ほかの相続人との交渉や、裁判に発展したときの対応などを行える点が大きな特徴といえます。
そういった対応は、法律の専門的な知識や豊富な経験が重要となるため、自分で行うことが特に難しく、それだけ弁護士に依頼するメリットは大きいといえるでしょう。

具体的なメリット・デメリットについては以下のとおりです。

【メリット】
・相続に関する手続の多くを代行してもらえる
・相続トラブルに発展してもサポートしてもらえる
・裁判所を通した手続(調停や審判)になっても対応を任せられる

デメリット】
・税理士や司法書士などのほかの士業に比べて、依頼費用が高くなる場合がある

また、「ほかの士業に比べて、対応できる手続が多い」という点もメリットです。
たとえば、遺言書や遺産分割協議書といった書類の作成、不動産登記、相続税申告などは、ほかの士業の専門業務と思われる方がいらっしゃるかもしれません。
しかし実際には、弁護士であればそれらの手続も対応することができます(※1)。
そのため、手続ごとに依頼先を変える手間がかからず、相続に関わる手続をまとめて依頼することも可能なのです(※2)。

  • ※1 税関連の業務を行えるのは、国税庁に税理士業務を行う旨を通知していて、税理士登録をしている弁護士のみ
  • ※2 事務所によっては、不動産登記や相続税申告などを受け付けていない場合もあります

税理士に依頼する場合

税理士は、その名のとおり税に関する業務を中心に対応します。そのため、相続手続全般を依頼できるわけではありません。
その点を踏まえて、税理士に依頼する場合のメリット・デメリットは以下のとおりです。

【メリット】
・相続税の計算や申告を依頼できる
・相続税の節税について提案してもらえる
・相続税に関する税務調査があっても対応してもらえる
・二次相続を踏まえたアドバイスをもらえる

【デメリット】
・税関連以外の手続は、対応してもらえないことが多い

特にまとまった額の財産が残されていて、多額の相続税が発生するような場合は、税理士に依頼されることをおすすめします。

ただし、税理士に依頼しただけでは、相続手続のすべてを完了させることはできません。自分で行うか、別の専門家を探す必要が出てくる点には注意しましょう。

司法書士・行政書士に依頼する場合

司法書士には、主に裁判所や法務局などに提出する公的書類の作成を依頼できます。そのほか、登記関連の手続も代表的な業務の1つであり、相続登記の手続を任せることもできます。

行政書士には、市区町村役場などに提出する書類作成や、申請の代行を依頼することが多いです。相続手続では、たとえば被相続人が残した株式や自動車の名義変更手続などが対象になります。

司法書士・行政書士に依頼するメリット・デメリットは以下のとおりです。

【メリット】
・相続手続に関する書類全般の作成を依頼できる
・書類作成に限らず、相続人や相続財産の調査業務も対応可能
・弁護士に依頼するときと比べて、費用が安く済むことがある

【デメリット】
・基本的に相続トラブルの対応はできない
・依頼者の方の代理で、交渉や手続の申請をすることはできない
※認定司法書士であれば、請求額140万円以下の遺留分侵害額請求などであれば対応可能

相続発生時の状況が複雑ではなく、基本的な手続だけで完了するような場合は、司法書士や行政書士に依頼されるのも選択肢の1つです。
しかし、相続手続は進めていくうちに思わぬトラブルに発展することが少なくありません。トラブルに発展するおそれがある方や、未然にトラブル発生を防ぎたい方は、弁護士に依頼されることをおすすめします。

相続手続を自分で行う場合の流れ

相続手続を自分で行う場合、基本的な流れは以下のとおりです。

  1. 遺言書の有無の確認
  2. 遺言書の検認手続(遺言書がある場合)
  3. 相続人・相続財産の調査
  4. 相続方法の選択
  5. 遺産分割協議
  6. 相続税の申告
  7. 相続登記(不動産を相続した場合)

それぞれ確認していきましょう。

①遺言書の有無の確認

まずは遺言書の有無を確認しましょう。遺言書があるかないかで、必要な手続が変わってくるためです。

遺言書は、被相続人が自分で作成してそのまま自宅に保管されている場合もあれば、「公正証書遺言」という形式によって、公正役場に保管されている場合もあります。
自宅を探しても見つからない場合は、公正役場に遺言書が保管されていないか確認してみましょう。

なお、公正役場に確認される際は、以下のような書類が必要になります。

必要書類の例

  • 遺言者が死亡した事実を証明する書類(除籍謄本など)
  • 遺言者の相続人であることを証明する戸籍謄本
  • 申出人の本人確認書類(マイナンバーカード、運転免許証など)

②遺言書の検認手続(遺言書がある場合)

遺言書の検認手続とは、相続人全員の立会いのもと、裁判所を通して遺言書を確認する手続のことです。検認時点の内容を確定し、その内容を相続人全員に知らせることで、それ以降遺言書の内容を変更できないようにすることが目的です。

ただし、遺言書の有効性までは確認できません。たとえば、法律上のルールに則っていない書き方がされていた場合など、検認手続のあとでも有効性が争われることもあります。

必要書類の例

  • 遺言書(自筆証書遺言または秘密証書遺言)
  • 被相続人が生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 遺言書の検認の申立書(家事審判申立書)
  • 収入印紙(遺言書1通につき800円分)や連絡用の郵便切手 など

③相続人・相続財産の調査

遺言書の確認が済んだら、相続人や相続財産の調査を行います。
相続人の調査では、亡くなった方を起点として各相続人の戸籍謄本を取り寄せて、1つずつ内容を確認していきます。

一方、相続財産の調査は、財産の種類によって異なります。預貯金であれば銀行から残高証明書などを取り寄せたり、不動産であれば固定資産税評価証明書を役所で取得したり、といった対応が必要になります。

また、調査の必要があるのは資産だけに限らず、被相続人に借金などの負債があれば、同様に調査の対象となりますので注意してください。

ご家族の把握している範囲で調査が完了すればいいのですが、なかには被相続人しか知らない財産や血縁関係があるかもしれません。
手続が進んでから新たに相続人や相続財産が見つかると、最初からやり直しになることもありますので、調査をおろそかにするのはやめましょう。

相続人や相続財産の調査は、基本的に役所や金融機関などから書類を収集して行います。その際必要になる書類は収集先ごとに異なりますが、以下の書類は基本的に必要になるためあらかじめ用意しておくとよいでしょう。

必要書類の例

  • 被相続人が生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本
  • 被相続人の住民票の除票、戸籍の附票
  • 相続人の戸籍謄本や住民票 
  • 本人確認書類 など

④相続方法の選択

相続財産を調査した結果、多額の借金などがあった場合、「相続しない」という選択肢を取ることもできます。
その場合、必要になる手続が相続放棄です。

相続放棄とは、すべての遺産について相続を拒絶し、相続人の地位を捨てる手続のことです。預貯金や不動産などを一切受け取れなくなりますが、被相続人の借金を肩代わりする心配もなくなるため、財産状況によっては検討の価値がある方法といえます。

ただし、相続放棄には手続に期限が設けられているなど、注意点もいくつかあります。相続放棄を検討したい方は、以下のページも併せてご覧ください。

相続財産に負債がある場合は、ほかにも「限定承認」という手続を行うこともできます。
限定承認は、プラスの財産の範囲内で借金などを返済し、余った財産があれば相続するという方法です。

ただし、限定承認は相続人全員の合意が必要で、手続にも時間がかかるといったデメリットがあるため、あまり行われません。

相続放棄も限定承認もしない場合は、自動的に「単純承認」をすることになります。単純承認とは、資産や負債を問わずすべての財産を相続することをいい、特に必要な手続などはありません。

⑤遺産分割協議

相続人や相続財産の内容を把握し、相続の方針も固まったら、次は遺産分割協議です。具体的には、相続人全員で「誰が」、「どの財産を」、「どのくらい」相続するのかについて話合うことになります。

基本的には、法律によって定められた法定相続分と相続順位を基準にして分割を行うことになりますが、必ずしもそのとおりにする必要はありません。相続人全員で合意できれば、その内容にしたがって遺産分割をすることもできます。

遺産分割協議がまとまったら、必ず遺産分割協議書を作成して、決まった内容を保存するようにしましょう。協議書を作成しておかないと、場合によってはあとになってもめるおそれがあるからです。

なお、遺産分割協議書を作成する際には、以下のような書類を用意しておくとよいでしょう。

必要書類の例

  • 被相続人が生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本
  • 被相続人の住民票の除票、戸籍の附票
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 相続人全員の印鑑登録証明書
  • その他、遺産の内容がわかる書類
  • 財産目録(あれば)

⑥相続税の申告

遺産分割協議を経て実際に財産を相続したら、相続税を申告しなければなりません。
相続した財産を整理して税額を計算し、必要書類を揃えて税務署に申告する必要があります。
期限は被相続人が死亡したことを知った日(通常は、被相続人の死亡の日)の翌日から、10ヵ月以内です。

ただし、相続税の計算は非常に複雑です。そのうえ、節税のために控除制度を利用する場合はさらにさまざまな条件を考慮しなければなりません。提出書類も多く、もし記載内容に間違いがあれば、税務署から指摘されるおそれもあります。
正確かつ手間をかけずに手続するのであれば、最初から税理士に依頼されたほうが確実でしょう。

相続税申告の具体的な流れや必要書類については、以下のページで詳しく解説しています。

⑦相続登記(不動産を相続した場合)

相続した財産のなかに不動産がある場合は、相続登記の手続が必要です。

相続登記とは、不動産の名義について、被相続人から新たに相続した人の名義に変更する手続のことです。
不動産の名義などの情報は、法務局が管理する登記簿に記載されています。その不動産がある地域の法務局に申請して、登記簿の情報を変更してもらいましょう。

なお、相続登記にも期限が設定されていて、原則として不動産を相続で取得したことを知った日または遺産分割協議の成立日から3年以内に、相続登記の申請を行わなければなりません。
正当な理由なく登記の手続を行わない場合は、10万円以下の過料が科される可能性があるため、必ず期限内に手続を行いましょう。

必要書類の例

  • 相続登記申請書
  • 被相続人が生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本
  • 被相続人の住民票の除票(戸籍の附票)
  • 相続人の住民票、戸籍謄本、印鑑証明
  • 最新の固定資産評価証明書
  • 遺言書もしくは遺産分割協議書(法定相続分どおりに相続する場合は不要)

相続手続でお悩みならアディーレへ

相続手続を自分で行う場合は、ご紹介してきたようなメリット・デメリットについて、事前によく検討しなければなりません。万が一、途中で断念することにでもなれば、かけていた手間や時間が無駄になるおそれがあるからです。
したがって、自分だけで手続することに少しでも不安がある場合は、専門家への依頼も一度検討されるとよいでしょう。

アディーレでは、主な相続関係の手続をまとめてお受けするプランをご用意しています。
手続ごとに個別に依頼する手間がかかりませんし、相続関係の手続に慣れた弁護士が代わりに対応するため、手続の漏れを心配する必要もありません。

また、相続手続に関するご相談は何度でも無料で承っています。手続の内容や費用面のことなど、気になることがあればお気軽にお問合せください。

橋 優介
この記事の監修者
弁護士
橋 優介
資格
弁護士、2級FP技能士
所属
東京弁護士会
出身大学
東京大学法学部

弁護士の職務として特に重要なことは、「依頼者の方を当人の抱える法的問題から解放すること」であると考えています。弁護士にご依頼いただければ、裁判関係の対応や相手方との交渉などは基本的にすべて弁護士に任せられます。私は、弁護士として、皆さまが法的な心配をせず日常生活を送れるように、陰ながらサポートできる存在でありたいと考えています。

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