遺言・遺産相続の弁護士コラム

相続登記の前後で相続放棄したらどうなる?手続の方法や注意点について解説

相続放棄・限定承認

相続登記の前後で相続放棄が行われる場合、手続が通常とは異なる場合があります。
また、相続登記の内容次第では相続放棄ができないケースもあります。

そこで今回は、相続人のなかに相続放棄した人がいる場合に相続登記をする方法や、相続登記をしたあとに相続放棄ができるケースなどをご紹介します。ぜひ参考になさってください。

この記事でわかること
  1. 相続人のなかに相続放棄した人がいる場合に相続登記をする方法
  2. 相続登記をしたあとに相続放棄ができるケース
  3. 通常の相続登記と法定相続分による相続登記の違い

相続登記とは

相続登記とは、相続によって不動産を取得したとき、不動産の名義人を被相続人(亡くなった人)から相続人(不動産を相続した人)に変更する手続のことです。
不動産の名義やその他の情報は、法務局が管理する登記簿に記載されています。この登記簿の内容が変更されれば、不動産の所有権が相続人に受け継がれたことを公に示すことができます。

相続登記の手続をしないと、不動産の名義はいつまでも被相続人のままなので、不動産の売却や賃貸などが一切できません。
また、「不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内」に申請を行わないと、10万円以下の過料が科される可能性もありますので、できるだけ早く手続する必要があります。

法定相続分による相続登記 

相続登記は、遺言書の内容や遺産分割協議の結果をもとに、誰が不動産を取得するのか決まった段階で行われるが一般的です。
しかし、遺言書が残されていなかったり、遺産分割協議がまとまらなかったりする場合、「法定相続分による相続登記」が行われることがあります。
 
法定相続分による相続登記では、相続人全員の名義で登記申請を行います。そのため、申請した不動産は相続人全員で共有している状態となります。
ただし、この共有状態には以下のようなデメリットがあります。

  • 売却や建替えなど、不動産の処分や活用をするのに、相続人全員の同意が必要になる
  • 借金などを抱えた相続人がいると、債権者に不動産を差し押さえられるおそれがある
  • 相続人が亡くなって相続が発生すると、権利関係が複雑になる

上記のデメリットを解消するため、相続人全員で改めて遺産分割協議を行い、不動産の所有者を正式に決めるケースも少なくありません。その場合、相続登記についても再び行うことになります。

相続放棄とは

相続放棄とは、プラスの財産(資産)・マイナスの財産(借金)にかかわらず、すべての財産を相続しない手続のことです。
相続放棄をすると、初めから相続人ではなかったとみなされて、ほかの相続人に遺産相続の権利が移ります。

注意すべき点は、相続放棄をしたいと考えていても、法律によって定められた一定の行動をすると、その時点で「単純承認」をしたとみなされ、相続放棄ができなくなることです。
単純承認とは、プラスの財産もマイナスの財産もすべて相続することをいいます。
たとえば不動産であれば、売却やリフォームなどを勝手に行うと、「これは自分の財産である」という意思表示があったとして、単純承認とみなされる可能性があるのです。

相続放棄の期限

相続放棄の手続には期限が設けられており、相続開始を知ってから3ヵ月以内に行わなければなりません。
もし3ヵ月が経過してから申請すると、基本的に相続放棄を認めてもらうことができなくなります。

期限内に手続ができなかった正当な理由や、それを裏付ける資料や証拠を準備すれば、認めてもらえる可能性もありますが、基本的には期限内に手続を完了させたほうがいいでしょう。

相続放棄した人がいる場合に相続登記をする方法

相続人のなかに相続放棄をした人がいる場合でも、相続登記の方法は通常とそれほど変わりません。ただし、基本的な申請書類に加えて、「相続放棄申述受理通知書」もしくは「相続放棄申述受理証明書」という書類の提出が必要になります。

相続放棄申述受理通知書は、相続放棄の手続が認められたときに裁判所から発行される書類で、相続放棄が行われたことの証明となります。
相続放棄をした相続人に連絡をして、書類のコピーをもらっておきましょう。

何らかの理由で通知書が入手できない場合は、相続放棄申述受理証明書を発行してもらう方法もあります。証明書であれば、ほかの相続人でも裁判所に申請することで取得できます。

通常の相続登記の方法については、以下のページをご覧ください。

相続放棄した人は相続登記をする義務がない

相続放棄の手続が認められた人は、相続登記をする必要はありません。
相続放棄が裁判所に認められた時点で、その人が不動産を相続することはなくなり、不動産の名義人になることもないからです。

なお、相続登記の義務はなくなりますが、不動産を保存(管理)する義務は残るため注意が必要です。
たとえば、被相続人が亡くなる直前まで一緒に暮らしていた相続人は、暮らしていた家を相続放棄したとしても、以下の期間中は保存義務が発生します。

  • 次の相続人が不動産を相続して管理を開始するまで
  • 相続財産清算人が選任されるまで(相続人全員が相続放棄した場合)

全員が相続放棄するなら、誰も相続登記をしなくてよい

相続人にあたる人が全員相続放棄を行った場合は、不動産を相続する人が実質いなくなるため、誰も相続登記をする必要はありません。
相続人がいなくなった不動産については、必要に応じて「相続財産清算人」という人が管理・清算を行い、最終的には国が引き取ることになります。

ただし、相続放棄をする前に、先ほどご説明した「法定相続分による相続登記」を行っていた場合は別です。この点についてはのちほど詳しくご説明いたします。

相続登記したあとに相続放棄はできる?

相続登記の申請が受理されたあとでも、場合によっては相続放棄をすることができます。
具体的にいえば、法定相続分による相続登記の場合は可能で、それ以外の場合はできません。
以下で詳しく見ていきましょう。

遺言もしくは遺産分割協議による相続登記をした場合

遺言書の内容や遺産分割協議の結果をもとに不動産を相続し、相続登記を行った場合は、あとから相続放棄をすることはできません。
なぜなら、相続放棄は遺産を相続する前に行われるべき手続だからです。遺言や遺産分割協議をもとに一度相続した財産については、改めて放棄することは認められません。

そもそも、遺言や遺産分割協議を経て相続した時点で、法律上の「処分行為」にあたります。
処分行為とは、たとえば不動産の一部を改築したり、売却したりするような行為が該当します。処分行為が行われると、その財産を全面的に相続した(単純承認)とみなされるため、相続放棄はできなくなるのです。

法定相続分による相続登記をした場合

法定相続分のとおりに相続登記をした場合は、相続放棄が認められる可能性があります。
というのも、法定相続分による相続登記の場合、遺産分割協議などを行っていません。つまり「処分行為」には該当しないとされるからです。
これは、法定相続分による相続登記を行うことが、相続開始に伴って遺産を共有している状態を登記上表現するための「保存行為」と解釈する余地があるためです。

そのため、これとは異なり、遺産分割協議をした結果として法定相続分による相続登記を行う場合は、「保存行為」ではなく「処分行為」とされる可能性が高いため注意しましょう。

なお、相続放棄が行われると、すでに登記していた法定相続分による持分割合に変更が発生するため、新しい持分割合でもう一度登記(正確には持分移転登記)をする必要があります。

たとえば、以下のようなケースをもとに考えてみましょう。

被相続人:父
法定相続人:妻、長男、次男

【法定相続分に従った持分割合】
妻:1/2
長男:1/4
次男:1/4

【妻だけが相続放棄した場合】
妻:0
長男:1/2
次男:1/2

【次男だけが相続放棄した場合】
妻:1/2
長男: 1/2
次男:0

【長男も次男も相続放棄した場合】
妻:2/3
直系尊属:1/3
この場合、相続権が第1順位の子から第2順位の直系尊属(被相続人の父母や祖父母)に移ります。
直系尊属がいない場合は第3順位の兄弟姉妹に移ります。

法定相続分による相続登記のあとに相続人全員が相続放棄をした場合

法定相続分による相続登記をしたあとで、新たに多額の借金が見つかったケースなどでは、誰か1人に限らず、相続人全員が相続放棄する可能性が高いでしょう。

しかし、全員が相続放棄をするということは、不動産の名義人はもとの被相続人に戻ることになるため、事前に行っていた法定相続分による相続登記の内容が間違っていることになります。
したがって、そういった場合は、法定相続分による相続登記を抹消する手続を行わなければいけません。

相続登記や相続放棄のことならアディーレへ

相続登記と相続放棄はどちらも重要な手続ですが、慣れない方がスムーズに行うのは簡単ではありません。特に2つの手続を両方とも行う場合、ご説明してきたような複雑な点を考慮する必要が出てきます。
ご自身だけで無理に対応しようとすると、手続がうまくできずに、罰則を科されたり、大きく損をしたりするおそれがあります。
そのため、手続に少しでも不安があれば、早い段階で弁護士などの専門家に相談するべきでしょう。

アディーレでは、相続登記や相続放棄のご相談・ご依頼を積極的に承っています。ご依頼いただければ、あなたの代わりに手続を行い、漏れなく完了させることができます。
相続に関するご相談は何度でも無料ですので、一度お気軽にお問合せください。

橋 優介
この記事の監修者
弁護士
橋 優介
資格
弁護士、2級FP技能士
所属
東京弁護士会
出身大学
東京大学法学部

弁護士の職務として特に重要なことは、「依頼者の方を当人の抱える法的問題から解放すること」であると考えています。弁護士にご依頼いただければ、裁判関係の対応や相手方との交渉などは基本的にすべて弁護士に任せられます。私は、弁護士として、皆さまが法的な心配をせず日常生活を送れるように、陰ながらサポートできる存在でありたいと考えています。

遺言・遺産相続の弁護士コラム一覧

遺言・遺産相続に関する
ご相談は何度でも無料です。

トップへ戻る