相続人のなかに認知症の人がいても相続登記はできる?方法や注意点を紹介

相続登記は、不動産の所有権を公に示す大事な手続です。登記をしていなければ売却や貸し出しなど不動産の活用を行うこともできません。
しかし、相続人のなかに認知症などで判断能力がない方がいると、相続登記の手続が通常とは異なる可能性があります。
このコラムでは、相続人の中に認知症がいる場合の相続登記において、事前に知っておくべき注意点などを詳しく解説いたします。
- この記事でわかること
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- 認知症の相続人がいる場合に相続登記をする方法
- 認知症の相続人がいる場合に相続登記をする際の注意点
- 認知症を隠したまま相続登記などの手続を行うリスク
- 目次
相続登記とは
相続登記とは、不動産(土地や建物)を相続で取得したという事実を登記に反映させることをいいます。言い換えると、不動産の所有権が相続人に受け継がれたことを公に示すことを目的とした手続です。
相続登記の手続には期限が設けられており、原則として「不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内」に申請を行わなければなりません。
仮に正当な理由なく手続をしなかった場合は、10万円以下の過料が科される可能性があります。
相続登記の詳細について知りたい方は、以下のページも併せてご覧ください。
認知症の相続人がいると相続登記ができないおそれがある
相続が発生したとき、相続人のなかに認知症の方がいる場合、相続登記ができないおそれがあります。
というのも、相続登記をする場合、誰がどの遺産をどれだけ相続するのかという内容はすでに決まっているものですが、認知症の方がいるとそういった内容を話し合うことができないからです。
誰がどの遺産をどれだけ相続するのかといった話合いを「遺産分割協議」といいますが、認知症によって判断能力が低下している方は、協議の内容を適切に理解したうえで意思表示を行うことができません。
かといって、遺産分割協議には相続人全員の合意が必須となるため、認知症の方以外で結論を出すこともできず、遺産分割を完了できません。不動産を取得する人が確定しないため、相続登記もできないというわけです。
遺言書がある場合は相続登記ができる
ただし、被相続人が遺言書を残していた場合は、認知症の方がいらっしゃっても相続登記が可能です。
遺言書によって、遺産の分割内容が決められていれば、遺産分割協議をする必要がないからです。
遺言書の指定どおりに各相続人が遺産を相続し、不動産を相続した人が通常どおり相続登記を行えばよいでしょう(遺言書に基づいて不動産を相続することになる方自身が認知症である場合は除きます) 。
認知症の相続人がいる場合に相続登記をする方法
遺産の分け方が決まっていない状況かつ、相続人のなかに認知症の方がいる場合でも、以下のような方法であれば相続登記をすることができます。
- 成年後見制度を利用する
- 法定相続分どおりに相続する
- 相続人申告登記をする
それぞれ詳しく見ていきましょう。
成年後見制度を利用する
成年後見制度とは、認知症や精神障害などにより判断能力が十分でない人(被後見人)の代わりに、財産の管理や、生活環境の整備、事務手続などを成年後見人が行う制度のことです。
成年後見人であれば、認知症の方に代わって遺産分割協議にも参加できるため、遺産分割を完了させることができます。不動産を相続する人が決まれば、もちろん相続登記も通常どおりできるようになります。
なお、認知症の方に成年後見人が付くまでにはおよそ2~3ヵ月程度かかるため、余裕を持って申請するようにしましょう。また認知症の方が亡くなるまで、成年後見人に支払う報酬も発生するため、その点も注意が必要です。
成年後見制度の詳細について知りたい方は、以下のページも併せてご覧ください。
法定相続分どおりに相続する
法定相続分とは、法律によって定められた各相続人の取り分のことです。
この法定相続分どおりに相続する場合は、法定相続人のうち誰か1人でも申請すれば、登記が認められます。
遺産分割協議をする必要はないため、相続人のなかに認知症の人がいる場合も手続を完了できるのです。
ただし、法定相続分どおりに相続する場合、不動産は共有状態になります。要するに、法定相続人全員の名義で登記したことになるのです。
不動産が共有状態となった場合はいくつかデメリットもありますので、のちに詳しくご説明します。
相続人申告登記をする
相続人申告登記とは、不動産の所有権を持つ登記名義人(亡くなった方)に相続が発生したことと、自らがその相続人であることを3年以内に登記官に申し出ることで、登記申請義務を果たしたものとみなす制度です。
この相続人申告登記であれば、認知症の相続人以外の人だけで完了させることができます。
さらに、相続登記よりも提出を求められる書類が少なく、費用もほとんどかからないという点もメリットです。
本来の相続登記とは異なるものの、最低限の義務は果たした状態になるため、少なくとも過料を科される心配は必要なくなります。
認知症の相続人がいる場合に相続登記をする際の注意点
相続人のなかに認知症の方がいらっしゃる場合でも、先ほどの方法であれば相続登記をしたり、登記申請義務を果たしたりできます。
しかし、どの方法にも注意点がありますので、その点も理解したうえで検討するべきでしょう。
以下でそれぞれ見ていきます。
成年後見人と意見が対立する可能性がある
成年後見人は、被後見人の方の利益を最優先に考えます。そのため、ほかの親族が資産や不動産を活用しようとしても、被後見人の財産が減るリスクがある場合、意見が対立する可能性があるのです。また、被後見人の住んでいた不動産の処分については裁判所の許可も必要になるため、ほかの親族の思うとおりにできないこともあります。
だからといって、成年後見人を変えたり、制度の利用をやめたりすることは基本的にできません。成年後見人が被後見人の財産を勝手に使い込んだなど、相応の理由がない限りは認められないのです。
したがって、成年後見制度を利用する場合は相続人全員でよく話し合ったほうがよいでしょう。もし判断がつかない場合は、弁護士などの専門家に相談されることをおすすめします。
法定相続分による相続だと不動産の活用に支障が出る
不動産を法定相続分どおりに相続すると、その不動産は相続人全員の共有状態となります。
その場合、不動産を売ったり、貸し出したりするには、ほかの相続人の合意が必要になるため、不動産の活用が非常にやりづらくなります。
さらに、共有状態のまま年月が経つと相続人のなかから亡くなる方も出てくるでしょう。すると、亡くなった相続人の子どもたちなどがその権利は引き継ぐことになり、相続関係が当初に比べて複雑になります。
交流のない相続人同士では、余計に意思疎通が図れず、不動産の活用はますますやりづらくなるでしょう。
相続人申告登記はあくまで暫定の手続
相続人申告登記は、登記の申請義務を果たすことはできますが、あくまで暫定的な手続に過ぎません。
相続登記を完了したときとは異なり、申請した不動産の名義は被相続人のままです。そのため、不動産を自由に処分することができません。
また、相続人申告登記をしたあとに、遺産分割が成立して正式な相続人が決まった場合、改めて相続登記の手続をする必要があります。
相続人申告登記をしたからといって、すべての問題が解決するわけではないことに注意しましょう。
相続と認知症に関する質問
認知症の程度が軽ければ相続登記などの手続はできる?
相続登記などの相続手続は、認知症だから絶対にできないというわけではありません。相続手続などの法的行為を行うのに必要な意思能力を有しているか、という点が重要な判断基準です。
そのため、「最近物忘れが増えた」など、認知症の症状が若干みられたとしても、遺産分割の内容を十分に理解して、話合いの場で意思を表明できるのであれば、遺産分割が成立する可能性もあるでしょう。
ただし、もし認知症の診断を受けているということであれば、十分な意思能力を有していないと考えられることが通常ですし、本当に有効な遺産分割となるかどうかは、一般の方だけで判断するより、弁護士などの専門家に相談されることをおすすめします。
認知症を隠したまま相続登記などはできる?
認知症であることを隠していても、相続手続の途中で発覚する可能性があります。
というのも、相続関係の手続では相続人が裁判所や法務局、銀行などを直接訪れる機会があるため、その際のやり取りで認知症が発覚する可能性が高いのです。
認知症であることがわかってしまうと、今までその相続人を含めて行った手続はすべて無効になります。また本当に認知症であれば、本人の代わりに勝手に署名・押印をして手続を進めていたかもしれませんが、「私文書偽造罪」という罪に問われることになるため、絶対にするべきではありません。
無理に隠すのではなく、適切に対応されたほうが、結果的には手間や負担も少なくなるでしょう。
相続人のなかに認知症の方がいてお困りならアディーレへ
ご紹介してきたような方法であれば、認知症の方がいらっしゃっても相続登記を行うことは可能です。しかし、それぞれ注意点やデメリットもあるため、どの方法を行うべきか迷う方もいらっしゃるでしょう。
アディーレでは、遺言・遺産相続に関わるご相談は何度でも無料で受け付けています。
また、ご依頼いただければ、相続登記の手続を代わりに行うこともできますし、成年後見人の申立てについてもお手伝いさせていただきます。
相続人のなかに認知症の方いらっしゃってお困りであれば、まずは一度お問合せください。あなたの状況に合わせて、相続に詳しい弁護士が最適なアドバイスをさせていただきます。

- この記事の監修者
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- 弁護士
- 橋 優介
- 資格:
- 弁護士、2級FP技能士
- 所属:
- 東京弁護士会
- 出身大学:
- 東京大学法学部
弁護士の職務として特に重要なことは、「依頼者の方を当人の抱える法的問題から解放すること」であると考えています。弁護士にご依頼いただければ、裁判関係の対応や相手方との交渉などは基本的にすべて弁護士に任せられます。私は、弁護士として、皆さまが法的な心配をせず日常生活を送れるように、陰ながらサポートできる存在でありたいと考えています。