遺言・遺産相続の弁護士コラム

不動産にかかる相続税はいくら?計算方法や控除制度について解説

相続税

不動産を相続することになったり、これから相続する予定があったりすれば、「相続税はいくらになるんだろう?」と気になる方は多いはずです。
しかし、不動産にかかる相続税がいくらになるか知るためには、さまざまな要素を考慮しつつ、複雑な計算が必要になります。

本コラムでは、不動産にかかる相続税の計算方法はもちろん、計算する前に必要となる「不動産の評価方法」などについてもわかりやすく解説します。また、不動産の相続税を控除して、税負担を軽減できる制度についても紹介していますので、ぜひ参考になさってください。

この記事でわかること
  1. 不動産(土地、建物、マンション)の評価方法
  2. 不動産の相続税を計算する方法
  3. 不動産の相続で利用できる控除や特例制度

不動産を相続するなら知っておくべき税金の基本

不動産を相続するともちろん相続税がかかりますが、実はそれ以外にもさまざまな税金が関係してきます。
このコラムでは主に相続税について解説していきますが、相続税以外にどんな税金が関わってくるのか、基本的な知識として押さえておきましょう。

相続税

そもそも相続税とは、亡くなった人からお金や土地、権利などを受け継ぐ場合にかかる税金のことです。
しかし、なかには相続税がまったくかからないケースもあります。というのも、相続税には非課税枠が設けられているため、その金額内であれば課税額が0円になるからです。

相続税の非課税限度額は、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」の金額になります。

法定相続人の数基礎控除額
1人3,600万円
2人4,200万円
3人4,800万円
4人5,400万円
5人6,000万円
  • 以降も法定相続人が1人増えるごとに600万円の加算

不動産の相続税評価額も、当然この非課税枠の対象です。
また、ほかに非課税にできる各種制度が設けられているため、併用することでさらに税負担を軽減することもできます。

相続税以外

不動産を相続すると、以下のようなタイミングでさまざまな税金が発生します。

【取得時にかかる税金】
・登録免許税
・不動産取得税

不動産を相続したら、その名義を被相続人から自分に変える必要があり、その手続を「相続登記」といいます。この相続登記には、登録免許税がかかる場合があります。
また、相続人以外へ特定の財産を指定して渡す(特定遺贈)場合は不動産取得税がかかります。

【所有時にかかる税金】
・固定資産税
・都市計画税

不動産を相続したあと、所有し続ける場合には、毎年上記の税金を支払う必要があります。

【売却時にかかる税金】
・所得税
・住民税
・復興特別所得税

相続した不動産を利用する予定がなく売却した場合には、得られた利益に応じて上記の税金が発生します。

不動産の相続税を計算するための準備

不動産の相続税額を計算するには、事前にいくつか準備が必要になります。
不動産の場合は特に評価額の算定が複雑なので、以下で詳しく見ていきましょう。

相続人と相続財産を確定させる

相続税の計算を始める前には、「相続人」と「相続財産」が確定していなければいけません。というのも、計算後に新しい相続人や財産が見つかると、そのたびに計算をやり直すことになるからです。

まず相続人については、亡くなった方の戸籍謄本などを調べるなどして確定させます。たとえば、被相続人に元配偶者との間の子どもがいるケースでは、たとえ別居していても相続人になるため注意が必要です。

一方、相続財産は金融機関などで所定の手続を行うことで調べられます。ほかにも「誰がどれだけもらうか」という分配割合も重要です。
遺言書があればその内容に従いますが、なければ遺産分割協議をして、相続人ごとの分配割合を確定させておきましょう。

不動産の評価額を調べる

不動産にかかる相続税は、その不動産の評価額をもとに算出します。
ただし、不動産の評価方法は土地と建物で異なりますので、それぞれ詳しく見ていきましょう。

土地の評価方法

土地の評価方法は「路線価方式」と「倍率方式」の主に2つがあります。

【路線価方式】
路線価×各種補正率×面積=相続税評価額

路線価とは「道路に面する土地1㎡あたりの評価額」のことで、この路線価に基づいて評価する方法を路線価方式と呼びます。
路線価は国税庁が調査・公表していて、国税庁のWebサイトで確認できます。同様に、各種補正率も公開されていますので確認してみてください。

参考:財産評価基準書|国税庁

【倍率方式】
固定資産税評価額×倍率=相続税評価額

倍率方式は、相続する土地に路線価が定められていない場合に用いられる方法です。特に郊外や農村地帯の土地は、路線価が設定されていない傾向にあります。
路線価が設定されているかどうか、もし設定されていないのであれば倍率はいくらか、といった点は先ほどの路線価同様、国税庁のWebサイトで確認できますのでぜひ参考になさってください。

なお、上記は自用地(自分自身が所有・利用している土地)の場合の計算方法です。
たとえば、賃貸物件を建てて賃貸収入を得ている土地(貸家建付地)や、借地権を設定してその上に他人が建物を建てている土地(貸宅地)はさらに追加で計算が必要になるため、詳しくは税理士などの専門家へご相談ください。

建物の評価方法

建物の評価方法は、その種類によって主に2つに分けられます。

【被相続人が住んでいた建物】
固定資産税評価額×1.0=相続税評価額

自宅など、被相続人が亡くなる前に住んでいた建物であれば、固定資産税評価額がそのまま相続税評価額となります。
固定資産税評価額は、毎年市区町村から送られてくる固定資産税の課税明細書に書かれていますので、ぜひ確認してみてください。

【賃貸に出していた建物】
固定資産税評価額×(1-借家権割合×賃貸割合)=相続税評価額

被相続人名義の建物を賃貸物件として活用していた場合は、上記の計算式で算出します。
計算式にある「借家権割合」とは、相続税の計算時に賃貸物件の評価に利用される割合のことで、全国一律30%で設定されています。
「賃貸割合」は、簡潔にご説明すると、たとえば一軒家をそのまま貸し出していれば100%、全10室のアパートを貸し出して8室しか埋まってなければ80%、という計算イメージです。

ただし、実務上は「建物の独立部分の床面積」を使用して評価しますので、実際はもっと複雑な計算が必要になります。詳しくは税理士などの専門家へご相談ください。

マンションの評価方法

居住用マンション(いわゆる分譲マンション)の一室を相続する場合は、以下のようなさらに複雑な計算が必要になる場合があります。

  1. 固定資産税評価額をもとに建物の評価額を算定
  2. マンションの敷地全体の評価額×持分割合(敷地権割合)=土地の評価額
  3. 建物の評価額×区分所有補正率+土地の評価額×区分所有補正率=相続税評価額

計算の流れとしては、まず建物部分と土地部分の評価額をそれぞれ算出します。
建物部分の評価額は、固定資産税の課税明細書で確認しましょう。

次に土地部分ですが、敷地全体の相続税評価額は、基本的に先ほどご説明した「路線価方式」で計算可能です。持分割合は、マンションの売買契約書や登記簿に記載してあります。

建物と土地の評価額が算出できたら、それぞれの金額に「区分所有補正率」をかけます。
ただし、この区分所有補正率の計算は非常に複雑なので、国税庁が公開している計算ツールの活用をおすすめします。

参考:居住用の区分所有財産の評価に係る区分所有補正率の計算明細書 |国税庁

【計算例付き】不動産の相続税を計算する方法

不動産の評価額などが確定できたら、相続税の計算を行うことができます。
以下のケースについての計算例を交えながら、詳しい計算方法を見ていきましょう。

相続財産:預貯金(3,000万円)、自宅(相続税評価額5,000万円)
被相続人:父
相続人(法定相続人 ):長男、長女
相続割合:長男と長女で各々2分の1ずつ

①正味の遺産額を算出する

まずは、以下の計算式で正味の遺産額(課税価格)を算出します。

正味の遺産額(課税価格)=プラスの財産-マイナスの財産+7年以内(※)の暦年課税に係る贈与財産

プラスの財産とは、不動産、預貯金、株式などの価値があるものを指します。一方、マイナスの財産は、被相続人が抱えていた借金などが対象です。
仮に、被相続人が亡くなる前の7年間に、金銭などの生前贈与を受けていた場合はその金額も足します。

  • 経過措置があります。詳細は税理士等にご相談ください。

【計算例】
3,000万円(預貯金)+5,000万円(自宅の評価額)=8,000万円(正味の遺産額)

②課税遺産総額を算出する

相続税には、税負担を軽減するための基礎控除が設けられているため、正味の遺産額から基礎控除額を引いて、課税遺産総額を算出します。
なお、基礎控除額は「3,000万円+(600万円×法定相続人の人数)」で算出できます。

【計算例】
8,000万円(正味の遺産額)―(3,000万円+600万円×2)=3,800万円(課税遺産額)

③相続人それぞれの取得金額を算出する

次に、法定相続人に応じた法定相続分をもとに相続人それぞれの取得金額を計算します。

課税遺産総額×法定相続人に応じた法定相続分=各相続人の取得金額

相続税法上は、実際の財産の取得状況に関わらず、法定相続分に従い、各相続人の取得金額を決定するルールとなっています。
今回の例では、相続割合と法定相続分が一致しておりますので、そのまま2分の1を使用します。

【計算例】
長男:3,800万円(課税遺産額)×1/2(相続割合)=1,900 万円(取得金額)
長女:3,800万円(課税遺産額)×1/2(相続割合)=1,900万円(取得金額)

④相続人それぞれにかかる相続税額を算出する

各相続人の取得金額が算出できたら、以下の計算式を使って相続税額が計算できます。

各相続人の取得金額×税率-控除額=各相続人の相続税額

税率と控除額は、金額に応じて細かく定められていますので、詳しく以下のコラムをご覧ください。

今回の例では、取得金額が1,900万円なので、税率は15%、控除額は50万円となります。

【計算例】
長男:1,900万円(取得金額)×15%(相続税率)-50万円(控除額)=235万円(相続税額)
長女:1,900万円(取得金額)×15%(相続税率)-50万円(控除額)=235万円(相続税額)

⑤最終的な納税額を算出する

最後に、以下の計算式にしたがって納税額を算出します。

相続税の総額×実際に取得した財産の割合-特例・税額控除=納税額

まず、各相続人の相続税額を合計し、相続税の総額を算出します。
そして、相続人が実際に取得した財産の割合で相続税の総額を按分し、最後に特例や税額控除(たとえば、配偶者に対する税額軽減や障害者控除など)があればそれを差し引くことで納税額が算出できます。

【計算例】
長男:470万円(相続税の総額)×1/2(実際に取得した財産割合)=235万円(納税額)
長女:470万円(相続税の総額)×1/2(実際に取得した財産割合)=235万円(納税額)

不動産の相続税対策で利用できる控除や特例制度

一般的に、不動産は相続税対策に有利だといわれています。その理由の1つに、税金を控除できる制度や特例が多く設けられていることが挙げられます。
不動産の金額が大きければ、非課税にできたときの恩恵も大きくなるため、制度が利用できるかどうかは非常に重要です。

以下で詳しく見ていきましょう。

配偶者の税額軽減(相続税の配偶者控除)

配偶者の税額軽減とは、配偶者が遺産分割や遺贈で取得した金額が1億6,000万円または法定相続分以下なら、相続税がかからない制度です。

この制度を利用する場合は、相続税の申告の際に下記の書類を添付して申請する必要があります。

【配偶者の税額軽減の申請に必要な書類】
・戸籍謄本
・税額軽減の明細を記載した相続税の申告書
・配偶者が取得した財産がわかる書類(遺言書の写しや遺産分割協議書の写しなど)

  • 遺産分割協議書の写しには印鑑証明書も添付する必要あり

注意点としては、この制度の恩恵を最大化しようとして、無理に配偶者の取得割合を増やしすぎないことです。
確かにこの制度を利用すれば、配偶者に相続財産を集中しても、限度額以下であれば相続税はかかりません。
しかし、今度は配偶者が亡くなったときの相続(2次相続)での相続税が増加し、残された家族が多額の相続税を負担することになるからです。

おしどり贈与(贈与税の配偶者控除)

おしどり贈与とは、正確には「贈与税の配偶者控除」のことで、一定の婚姻期間がある夫婦なら自宅や自宅の購入資金の贈与を2,000万円まで非課税で行える制度です。
ただし、あくまでも「生前贈与」の際に適用できる生前対策としての特例であり、「相続発生」時点で適用できる特例ではございませんのでご留意ください。

おしどり贈与の適用を受ける場合は、以下の条件を満たしている必要がありますので、ご自身が当てはまるか確認してみてください。

【おしどり贈与の適用条件】
・贈与が行われた時点で、夫婦の婚姻期間が20年を過ぎている
・適用対象は、居住用不動産(いわゆるマイホーム)またはその購入資金
・贈与を受けた年の翌年3月15日までに、居住用不動産(または贈与された資金で購入した不動産)に贈与を受けた人が住んでいて、その後も住む予定がある

この制度を利用して、生前のうちに自宅やその購入資金を贈与しておけば、相続税の負担を軽減できる場合があります。
ただし、先ほどご説明した「配偶者の税額軽減」を利用したほうが節税対策として効果的なケースもあるため、比較検討をしたうえで利用するようにしましょう。

相次相続控除

相次相続控除とは、10年以内に2回以上相続が発生して相続税を支払った場合に、税負担を一部軽減できる制度のことです。

具体的には、以下の条件を満たす場合、税務署に申告書を提出することで適用されます。

  1. この控除の適用を受ける人が被相続人の相続人であること
  2. 前の相続開始から今回の相続開始まで10年以内であること
  3. 前の相続で今回の被相続人が相続財産を取得し、相続税が課税されていること

ただし、この相次相続の控除額は計算式が非常に複雑です。以下に詳細を記載しますが、税理士などの専門家に相談して利用されるほうが無難です。

【相次相続控除額の計算式と計算項目内訳】
ステップ①:A×C÷(B-A)(※1) =①
ステップ②:①×D÷C=②
ステップ③:②×(10-E)÷10=控除額

A:被相続人が前の相続の際に課せられた相続税額(※2)
B:被相続人が前の相続の際に取得した純資産価額
C:相続など(※3)によって、財産を取得したすべての人の純資産価額の合計額
D:相続人の純資産価額
E:前の相続から今回の相続までの期間

  • ※1 C÷(BーA)>1のときは1とする
  • ※2 被相続人が納税猶予の適用を受けていた場合、免除された相続税額や延滞税、利子税、加算税は含まれない
  • ※3 遺贈や、相続時精算課税に係る贈与も含む

小規模宅地等の特例

小規模宅地等の特例とは、土地の評価額が最大80%減額され、相続税の負担を軽減できる制度のことです。
たとえば、実際の評価額は3,000万円する土地でも、この特例によって80%減額できれば、600万円で計算できるため相続税の軽減につながります。

小規模宅地等の特例が適用できる条件は、「対象の土地がどんなことに使われていたか」、「土地を相続する人は、被相続人とどんな関係にあったか」などの点で異なってきます。

たとえば、被相続人が相続開始前まで住んでいた土地(自宅)なら、その配偶者は無条件で適用できます。
しかし、被相続人と生計を同じにしていた親族の場合、相続税の申告期限(※)まで、その土地に住み、保有し続けることが条件となります。

  • 被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10ヵ月以内

小規模宅地等の特例について、詳しくは以下のコラムをご覧ください。

未成年者控除・障害者控除

法定 相続人が18歳未満の未成年である場合には、未成年者控除も適用できます。具体的には、未成年の相続人が「18歳に達するまでの年数×10万円」を相続税額から控除できます(※)。

また法定相続人が満85歳未満の障害者の場合には、障害者控除が利用できます。
控除額は、一般障害者の方であれば「(85歳-相続開始時の年齢)×10万円」、特別障害者の方であれば「(85歳-相続開始時の年齢)×20万円」です(※)。

  • 年数の計算に当たり、1年未満の期間があるときは切り上げて1年として計算

なお、特別障害者に該当するのは「身体障害者1・2級・精神障害者保健福祉手帳1級」、「療育(愛護)手帳1~2度(A)」などが交付された方になります。

不動産の相続でお困りなら専門家へ

不動産にかかる相続税の計算は非常に複雑です。ご説明してきたように、不動産の評価額を計算したり、各種控除を適用したり、さまざまな要素を考慮しなければならないからです。
また、異なる種類や用途の不動産を複数相続する場合など、個別のケースでは算出がさらに煩雑になるでしょう。

相続税の計算にもし間違いがあれば、税務署から指摘を受けたり、本来は利用できるはずの制度が利用できなくなったり、さまざまなデメリットが発生します。
そうした事態を防ぐためにも、ご自身だけで計算・申告するのではなく、一度税理士などの専門家へご相談ください。

松尾 大志
この記事の監修者
協力税理士
松尾 大志
資格
税理士
出身大学
高知大学人文学部

相続は、人生における大きな出来事の一つであり複雑な手続きを伴います。たいせつなひとをお送りしたあとで、一定の期間内に様々な作業を行っていかなければなりません。心労を抱えた中での作業は難しいこともあろうかと存じます。相続税申告に関するご不明な点やご不安な点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

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