生前からできる相続対策には何がある?おすすめの方法や必要な準備とは?
相続対策とは、自分の死後に家族や相続人が困らないようにする手続全般を指します。
相続税を減らす節税対策はもちろんですが、相続人同士のトラブルを未然に防いだり、残された家族の生活のことを考えたり、やっておくべきことは多岐に渡ります。
そこで本記事では、生前から行っておくべき相続対策全般について解説していきます。
「相続対策をしたいけど、何をすればいいかわからない」という方のために、具体的な方法などをわかりやすくご紹介しますので、ぜひ参考になさってください。
- この記事でわかること
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- 相続対策を始める前の準備
- 目的に合わせた相続対策
- 相続対策を始めるのに適したタイミング
- 目次
生前に行う相続対策とは?
生前に行う相続対策とは、自分が亡くなったあとのことを考えて、相続人となる家族などのために行う手続のことです。具体的には、「お金に関する対策」と「トラブルに関する対策」の大きく2つに分けることができます。
お金に関する対策で重要となるのが税金の問題です。自分の死後、相続人が遺産を相続すると「相続税」が発生しますが、この相続税の負担を軽くすることが大きな目的となります。
トラブルに関する対策では、自分の死後、相続人同士が争うことのないようさまざまな準備をしておきます。仲のよかった親戚同士が遺産相続でもめて疎遠になる、というケースも少なくありませんから、誰にでも起こり得る問題といえます。
この「お金に関する対策」と「トラブルに関する対策」は、どちらか一方だけを行えばよいわけではありません。ご自身の状況・目的に合わせて、2つの対策をバランスよく実施することでより効果的な対策となります。
生前の相続対策を始める前の準備
相続対策を始める前に、実はやっておくべき準備があります。
それは「自分の死後について、希望や心配ごとを明確にしておく」ということです。
というのも、「どんな対策をどれだけ行うべきか?」というのは、1人1人異なってくるからです。もちろん相続財産や法定相続人の状況などから形式的に判断されることもありますが、ご自身の希望や心配ごとも重要な指針となるのです。
たとえば、「特定の相続人に遺産を多く残したい」という場合、その希望を中心に対策方法を検討します。
一方、そうした希望がなければ、法定相続分(法律で定められた分割割合のこと)に従って、遺産が分配されることが多く、また別の対策が必要になります。
【目的別】生前からできる相続対策の方法
相続対策の希望や心配ごとが整理されたら、相続対策を行う目的も明確になってきます。
以下では、目的ごとに行うべき相続対策をご紹介していきます。
①相続トラブルを予防したい
自分が亡くなったあと、相続人同士のトラブルに発展するケースがありますが、その多くは「遺産の分け方」が原因になっています。
したがって、トラブルに繋がるような曖昧な状態で財産を残さないことが肝心です。
【対策方法】
・法的に有効な遺言を残す
・不動産ではなく、できるだけ現金のかたちで財産を残す(資産の組換えを行う)
法律では、遺言によって指定された相続割合や方法が最優先されます。極端にいえば「特定の相続人にだけ多くの遺産を渡す」ことも可能であり、その場合、ほかの相続人は文句を言うことができません(※)。
逆に言えば、遺言がない場合、不公平な分割になっていれば異議を唱えることは至極当然なので、より多くの取り分を巡って争いになるリスクが高いといえます。
また残された財産が土地や建物だけになる場合も注意が必要でしょう。現金のように公平な分け方が困難なので、トラブルに発展しやすくなります。可能であれば、不動産は売却し現金として残す方法も検討すべきです。
- ※ 法律で決められた最低限の相続分(遺留分)が侵害された場合は別です。
②相続税の負担を減らしたい
大切な家族にたくさんの財産を残したい場合、まずは相続税の負担を減らすことが先決です。
相続税の対策は非常に種類が多く、また税法上の観点からさまざまな内容を考慮する必要があるため、ここでは代表的な方法に絞っていくつかご紹介します。
【対策方法】
・相続税の非課税制度を利用する
・「生前贈与」を行い、課税額を下げておく
・不動産の評価額を下げておく
相続税には、基礎控除額が設定されていますので、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」という計算式で具体的な金額がわかります。さらに「配偶者に対する相続税額の軽減」や「小規模宅地等の特例」など、各種控除制度が用意されているため、これらを組み合わせることで効果的に節税対策ができます。
そのほか、生前のうちに財産を贈与して相続税の対象となる金額を下げる方法もあります。ただし、生前贈与の場合は「贈与税」という別の税金がかかるため、相続した場合とどちらが節税になるか事前の確認が必要になります。
また、何も活用していない土地をお持ちの場合は、「賃貸物件を建てる」などの方法で評価額を下げ、課税負担を軽減する方法も挙げられます。賃貸物件を建てる場合は、多額の資金を必要とするため余剰資金の範囲内で実行することをおすすめいたします。
③残された家族の生活を守りたい
あなたが家計の中心を担っている場合、自分の死後、家族の生活は不安定になりかねません。
家族が生活資金に困らないように、以下の対策を検討しましょう。
【対策方法】
・生前贈与を行う
・生命保険や信託商品を活用する
・未活用の不動産があれば、売却して現金にしておく
家族の生活を案じて財産を残したつもりでも、相続手続がうまくできずに、財産を残した口座が凍結されたり、家族の取り分が減ってしまったりするおそれもあります。
そのため、生前のうちから家族に贈与を行い、家族自身が財産を管理できるようにしたほうが安全です。もし、十分な財産が手元にない場合は、生命保険や金融機関が扱う信託商品などを活用してみましょう。
なお、残しておく財産は現金が望ましいです。相続が発生すると、想定以上の税金が発生する可能性もあるので、土地などの不動産しか残していないと納税資金が足りなくなるおそれがあります。
④残された家族に苦労をかけたくない
自分の死後、家族は葬儀や相続手続を行うことになりますが、そのためにはさまざまな情報が必要になります。
いざというとき、家族に苦労をかけないように以下のような内容を準備しておきましょう。
【対策方法】
・財産状況を整理しておく(財産目録を作成しておく)
・友人や知人、親族のリストを作っておく
・身の回りの品を整理しておく
・葬儀やお墓に関して意向を伝えておく
・借金やローンがあれば返済しておく
家族や相続人が相続手続を進める際、残された財産には「何が」、「どれくらい」、「どこに」あるのか、といった情報が必要になります。もちろん、手続の前に財産調査を行うことでそういった情報は調べられますが、手間や費用がかかるため、情報がまとめてあるに越したことはありません。
お金のことだけでなく、友人や親族の情報もまとめておきましょう。そういった内容は家族も知らないことが多いため、葬儀の際に困るかもしれませんし、相続人になり得る親族の情報は相続手続で非常に重要になるからです。
自分の希望や現状を整理するためにも、エンディングノートを活用することもおすすめします。
契約している銀行口座や生命保険、連絡先、財産状況など必要情報をまとめてエンディングノートに残すことで、自分の死後に家族の負担を減らすことができます。
ただし、エンディングノートには遺言書のような法的効力はないため、使い分けは必要です。
⑤認知症になったときに備えたい
万が一、自分が認知症になってしまうと、家族など周りの大切な人たちに苦労をかけることになります。また、認知症の状態では自分で財産の管理ができず、お話ししたような相続対策も実行できなくなるのです。
【対策法】
・任意後見制度を利用する
・家族信託を利用する
任意後見制度とは、判断・認知能力があるうちに、自分で後見人を設定する制度です。もし自分が認知症になっても、後見人が代わりに財産の管理や契約手続などを行ってくれますし、あらかじめ伝えておけば自分の意向を反映してもらうことも可能です。
後見制度に似ていますが、家族信託という選択肢もあります。家族信託とは、自分の財産を家族などの信頼できる人に託し、取決めに基づいて管理・処分してもらう制度です。
あくまでも、財産管理が主な目的の制度ですので、後見制度と違って重要な事務手続などは任せることができません。
生前の相続対策はいつから始めるべき?
相続対策は、早い段階から始めたほうが効果的な場合が多いです。
たとえば、相続税の負担を減らすために「年間110万円の非課税枠を利用して、生前贈与をしよう」とお考えの方は多いはずです。
しかし、亡くなる7年前以内(※)に行った贈与のうち一定のものは相続税の課税対象となります。駆け込みでの贈与では対策にはならないので、早い段階から計画的に行っていくべきでしょう。
- ※ 経過措置があります。詳しくは税理士等の専門家にご相談ください。
ただし、家族構成や収入面に大きな変化があると、その状況に合わせて対策内容も変更する必要が出てくるかもしれません。そうした変化が予測できる場合には、状況が落ち着くまで待ったほうがよいでしょう。
相続対策をお考えなら専門家へ
生前からしっかり相続対策を行っておけば、大切な家族の負担を軽減することができます。
そのためには、ご説明してきたような対策を検討していただくことになりますが、一般の方が実際に行うのは簡単ではありません。
特に、税金などの対策は考慮すべき点が多く、一概に「この対策をしておけばよい」とはいえません。無理にいろんな対策をやってしまうと、かえって支払う税金が増えたり、生活資金が足りなくなったり、さまざまな弊害が出るかもしれません。
相続対策をお考えの方は、まず税理士などの専門家へご相談ください。
- この記事の監修者
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- 協力税理士
- 松尾 大志
- 資格:
- 税理士
- 出身大学:
- 高知大学人文学部
相続は、人生における大きな出来事の一つであり複雑な手続きを伴います。たいせつなひとをお送りしたあとで、一定の期間内に様々な作業を行っていかなければなりません。心労を抱えた中での作業は難しいこともあろうかと存じます。相続税申告に関するご不明な点やご不安な点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。