遺言・遺産相続の弁護士コラム

定期贈与とは?連年贈与との違いや回避する方法を解説

生前対策

定期贈与とは、お金を渡す人と受け取る側であらかじめ金額などの取決めを行い、毎年規則的に贈与していく方法です。
この定期贈与とよく似た方法に「連年贈与」があります。どちらも毎年贈与を行うという点で共通していますが、この2つには明確な違いがあり、場合によっては支払う税額が大きく変わることもあるのです。

そこで本記事では、定期贈与と連年贈与の違いをはじめ、定期贈与とみなされた場合のデメリットやみなされやすいケースについてご説明します。

この記事でわかること
  1. 定期贈与とみなされるデメリット
  2. 定期贈与とみなされやすいケース
  3. 定期贈与とみなされないための対策

定期贈与とは?

定期贈与とは、あらかじめ決められた金額のお金を、毎年定期的に贈与する方法のことです。

たとえば、贈与者(お金を渡す側)と受贈者(お金を受け取る側)の間で「1,000万円を贈与する」という取決めを行ったうえで、毎年100万円ずつ渡していった場合などは定期贈与になります。

連年贈与とは?

連年贈与とは、単純に毎年贈与を行うことを指します。

連年贈与とよく似た言葉として「暦年贈与」がありますが、こちらのほうがなじみ深い方もいらっしゃるでしょう。
暦年贈与とは、贈与税の仕組み(暦年課税)を利用して、年間110万円という非課税枠の範囲で贈与していく手法のことで、形式としては連年贈与に含まれます。

定期贈与と連年贈与の違い

定期贈与と連年贈与の違いは、「あらかじめ取決めがあった贈与なのか?」という点で大きく異なります。
たとえば、以下の2つのケースは一見同じことのように思えますが、税法上の観点からは取扱いが異なる場合があります。

A:1,000万円を10年に分けて贈与する=定期贈与
B:毎年100万円の贈与を10年間続ける=連年贈与

Aのケースに関しては、1,000万円という金額があらかじめ決められていて、それを10年で分割したものとみなされます。
一方、Bのケースは金額などの取決めはありません。「100万円を贈与した年が、結果的に10年続いた」とみなすことが可能です。

ただし、定期贈与か連年贈与かの判断は、実際はもう少し複雑な事情を考慮する必要がありますので、のちに詳しく解説いたします。

定期贈与とみなされるとどんなデメリットがある?

定期贈与とみなされると、連年贈与(暦年贈与)をしたときと比べて贈与税を余計に支払わなければならない、というデメリットがあります。

というのも、連年贈与であれば毎年の贈与分に対して非課税枠を利用できるため、贈与額が毎年110万円以下なら支払う贈与税は0円で済みます。
しかし、定期贈与はあくまでも「1回の贈与」という見方をされるので、毎年の贈与ごとに控除されるわけではなく、贈与額全体から110万円が控除されるだけとなります。

よりわかりやすく理解するために、例を出して見てみましょう。

【定期贈与と連年贈与で支払う贈与税額の比較】
贈与者:祖父
受贈者:孫(20歳)
合計贈与額:1,000万円
贈与方法:毎年100万円ずつ渡す

① 定期贈与とみなされた場合
1,000万円(贈与額)-110万(基礎控除額)=890万円(課税対象)
890万円×30%(税率)-90万円(控除額)=177万円(贈与税)

② 連年贈与とみなされた場合
100万円(毎年の贈与額)-110万円(基礎控除額)<0円(課税対象)
これを10年繰り返す

上記の例では、定期贈与とみなされた場合、177万円の贈与税を支払うことになります。

定期贈与とみなされやすいケースは?

定期贈与とみなされるケースには、いくつか特徴があります。
たとえば、以下のようなケースでは、税務署から「この贈与は定期贈与では?」とみなされやすくなってしまいます。

【定期贈与とみなされやすいケース】
・贈与する金額と時期が毎年同じである
・「贈与契約書」を作成していない
・お金を手渡ししている(銀行振込みなど証拠が残る渡し方ではない)

定期贈与と連年贈与(暦年贈与)を判断する基準として、「あらかじめ、贈与について取決めがあるかどうか」という点を紹介しました。
しかし、実はそれ以外にも「税額が大きくなるのはどちらか」という観点も判断に関わっているとされています。
先ほどの計算例のように、基本的に定期贈与のほうが税額は大きくなりますので、「年間110万円以下なら大丈夫」と安易に考えないほうが賢明でしょう。

定期贈与とみなされないための対策

定期贈与とみなされる事態を回避するには、定期贈与ではないと判断できる証拠や事実を残していくことが重要です。
具体的に以下の方法が挙げられるため、詳しく見ていきましょう。

贈与ごとに贈与契約書を作成する

毎年行う贈与について、その都度「贈与契約書」を作成するようにしましょう。
贈与契約書とは、贈与者と受贈者の間で、贈与が行われることの合意や、贈与が行われた事実を客観的に証明する書類のことです。公正証書であれば確定日付となるため、証明能力がより高まります。

贈与契約書があれば、毎年の贈与が一度の合意ではなく、その都度合意された独立した契約である証拠となります。万が一、税務署から指摘を受けた場合にも、「連年贈与であること」を証明しやすくなるでしょう。

贈与税を納める

110万円以上の贈与を意図して行い、毎年贈与税を申告・納付する方法もあります。
贈与税がすでに支払われている場合、税務署があとから定期贈与として追加徴収することはまれですし、形式的にも定期贈与とはみなされづらくなるからです。

【祖父から孫(20歳)に1,000万円を3回に分けて贈与した場合】
1年目:300万円
2年目:400万円
3年目:300万円

① 1年目、3年目
300万円(贈与額)-110万(基礎控除額)=190万円(課税対象)
190万円×10%(税率)=19万円(贈与税)

②2年目
400万円(贈与額)-110万(基礎控除額)=290万円(課税対象)
290万円×15%(税率)-10万円(控除額)=33万5,000円(贈与税)

③贈与税の合計
19万円×2+33万5,000円=71万5,000円

同じ1,000万円を贈与したとき、定期贈与とみなされたら177万円かかるため、税額は半分以下で済んでいます。0円にすることはできませんが、高額な税金を支払うリスクを回避しやすくなるでしょう。

名義預金をしない

「名義預金」を避けることも重要です。
名義預金とは、名義人とは異なる人が管理している預金のことを指します。

たとえば、よくあるケースでは、祖父が孫名義の口座を作りそこに入金していった場合などです。
こういったケースでは、実質的には祖父が管理している口座のため、そもそも贈与としての有効性が疑われ、税務署から指摘が入るリスクがあるのです。
贈与を行う場合には、受贈者が実際に管理している銀行口座へ振り込むようにしてください。

銀行振込みで贈与する

銀行口座への振込みなら贈与の証拠が残るため、もし税務署へ説明が必要になった場合も対応しやすくなります。
一方、手渡しでの贈与だと客観的な証拠を残すことができません。定期贈与ではないことを証明しようにも、証拠がなければ判断を覆すことは非常に困難になってしまいます。

贈与の時期・金額を毎年変える

毎年同じ時期・金額に贈与を行っていると、「あらかじめそういった取決めがあったのでは?」と疑われやすくなります。

反対に、連年贈与とみなされるためには、「毎年贈与していたが、たまたま毎回非課税限度額に収まっていた」という客観的な事実が重要です。
たとえば、以下のような方法で贈与していくとよいでしょう。

1年目:4月に95万円
2年目:7月に105万円
3年目:贈与なし
4年目:9月に103万円

時期や金額を変えるだけでなく、贈与をしない年も挟むことで「定期的に贈与されている」とより判断されづらくなるはずです。

定期贈与や贈与税のことなら専門家へ

「110万円以下の贈与なら非課税になると聞いたから」と、お子さんやお孫さんに毎年贈与をされている方もいらっしゃるでしょう。

しかし、ご説明してきたように、税務署からもし定期贈与とみなされた場合、想定している以上の贈与税がかかってしまうかもしれません。定期贈与とみなされないための対策もご紹介してきましたが、そもそも暦年贈与以外の節税対策を考えたほうがいいケースもあります。

このように、贈与税をはじめとする税金の問題は、考慮すべきことや特例制度などが多く、一般の方では最善の手段を選べないことがほとんどです。
お一人で判断するのではなく、ぜひ一度税理士などの専門家へご相談ください。

松尾 大志
この記事の監修者
協力税理士
松尾 大志
資格
税理士
出身大学
高知大学人文学部

相続は、人生における大きな出来事の一つであり複雑な手続きを伴います。たいせつなひとをお送りしたあとで、一定の期間内に様々な作業を行っていかなければなりません。心労を抱えた中での作業は難しいこともあろうかと存じます。相続税申告に関するご不明な点やご不安な点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

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