遺言・遺産相続の弁護士コラム

【2024年最新】住宅取得資金の贈与税には最大で1,000万円の非課税枠がある?

生前対策

住宅取得資金を援助した際の贈与税は、最大1,000万円まで非課税にできる場合があります。

ただし、この制度を利用するには援助する側とされる側がそれぞれ条件を満たしていなければなりません。さらに購入する住宅の種類によっては、非課税の内容が変わってくるなど少し複雑な制度です。

本記事では、住宅取得資金を贈与する際に知っておくべき、非課税制度について詳しく解説しています。また非課税枠の利用以外にも節税につながる内容を紹介していますので、ぜひ参考になさってください。

この記事でわかること
  1. 住宅取得資金の贈与税を非課税にできる金額や条件
  2. 非課税制度を利用する際の注意点
  3. 住宅取得資金の贈与税

住宅取得資金の贈与税には非課税枠がある

住宅取得資金を子や孫に贈与(援助)した場合、贈与税がかかります。
しかし、この贈与税には特例の非課税枠が設けられているため、条件を満たせば贈与税の負担を軽減することが可能です。

ただし、この非課税制度は令和8年(2026年)末までの期限付きになります。
とはいえ、過去には令和5年(2023年)末までとされていたところを法改正によって延長されているため、今後も利用できる可能性はあります。

制度の内容について、さらに詳しく見ていきましょう。

非課税枠の金額は?どれくらい節税できる?

非課税枠として以下の金額が設定されています。

住宅の種別非課税限度額(※)
省エネ等住宅1,000万円
上記以外の住宅500万円
  • 令和4年(2022年)1月1日以降・消費税が10%の住宅を取得した場合

たとえば祖父から18歳以上の孫へ、省エネ等住宅購入のための住宅取得資金として2,000万円の贈与を行う場合を想定しましょう。

通常であれば約580万円の贈与税がかかりますが、非課税制度を利用できれば177万円で済むため、400万円近い節税になります。

【非課税制度を利用する】
2,000万円-1,000万円(住宅取得資金の非課税枠)-110万円(暦年贈与の基礎控除額)=890万円
890万円×30%-90万円(贈与税の基礎控除額)=177万円

【非課税制度を利用しない】
2,000万円-110万円(暦年贈与の基礎控除額)=1,890万円
1,890万円×45%-265万円(贈与税の基礎控除額)=585万5,000円

なお、非課税枠の金額は、法改正によって何度か変更されてきています。
たとえば、令和2年(2020年)4月1日から令和3年(2021年)12月31日までは、「省エネ等住宅」の場合で1,500万円、「それ以外の住宅」では1,000万円でした。

「省エネ等住宅」についてはのちほど詳しくご紹介します。

省エネ等住宅とは?

非課税になる金額は「省エネ等住宅」と「それ以外の住宅」で異なってきます。
省エネ等住宅とは、省エネルギー性のほかに、耐震性やバリアフリー性に優れている住宅のことで、「質の高い住宅」とも呼ばれます。

具体的には、新築住宅の場合以下の3つの条件のうち、どれか1つでも満たしている住宅が対象です。

  • 断熱等性能等級5以上かつ 一次エネルギー消費量等級6以上(※)
  • 耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)2以上または免震建築物である
  • 高齢者等配慮対策等級(専用部分)3以上

上記の条件を満たしているかどうかは、一般の方では判断できない場合があります。
住宅の販売・施工会社などに確認してみましょう。

  • 2023年(令和5年)12月末までに取得した宅取得等資金については、省エネ等住宅の条件に違いがあり、変更前は「断熱等性能等級4以上又は一次エネルギー消費量等級4以上であること」でした。

住宅取得資金の贈与税が非課税になる条件

住宅取得資金を援助する側の条件

住宅取得資金を援助する人は、援助を受ける人の直系尊属である必要があります。
直系尊属とは、両親や祖父母など直接の祖先の系列にあたる人のことです。

たとえば、娘が結婚し、その夫へ住宅取得資金を援助した場合は対象外となってしまいます。
ただし、娘の夫と養子縁組をすれば、直系尊属に該当するため非課税制度の対象となります。

住宅取得資金を受け取る側の条件

住宅取得資金の援助を受ける人は、以下のとおり複数の条件を満たす必要があります。

  • 贈与者の直系卑属(子や孫)にあたる
  • 贈与を受けた年の1月1日時点において18歳以上
  • 贈与を受けた年の所得が2,000万円以下(※1)
  • 贈与を受けた時点で日本国内に住所がある
  • 贈与を受けた日が居住開始前
  • 贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与金の全額を使って住宅を取得する
  • 贈与を受けた年の翌年3月15日までにその住宅に居住する(※2)
  • 贈与税の申告で「住宅取得等資金の非課税」の適用を受けていない
  • ※1 床面積が40㎡以上50㎡未満の場合には、1,000万円以下
  • ※2 もしくは同日後遅滞なく居住することが確実であると見込まれること

対象となる住宅の条件

取得もしくは増改築する住宅についても条件があります。

新築・中古住宅取得の場合

  • 日本国内にある住宅用家屋
  • 住宅用家屋の登記簿上の床面積が40㎡以上240㎡以下
  • 床面積の2分の1以上が居住用に使われている
  • 取得した住宅が次のいずれかに該当している
    ①建築後誰にも使用されていない新築住宅
    ②昭和57年1月1日以後に建築された中古住宅
    ③以前に建築され、耐震基準に適合することが一定の書類によって証明された中古住宅

増改築等の場合

  • 日本国内にある住宅用家屋
  • 増改築後の住宅用家屋の登記簿上の床面積が40㎡以上240㎡以下
  • 床面積の1/2以上が受贈者の居住用に使用されている
  • 増改築等工事が行われる住宅が援助を受ける人の所有になっている
  • 増改築等工事が、居住している家屋に対して行われたものであると「増改築等工事証明書」などの書類で証明されている
  • 増改築等にかかる費用が100万円以上である
  • 増改築等費用の2分の1以上が居住用に使われている

非課税制度を利用するために必要な手続・書類

手続

住宅取得資金贈与の非課税制度を利用するには、贈与税の申告書にその旨を記載して提出する必要があります。申告書の詳しい作成方法については、国税庁のホームページなどが参考になります。

なお、申告書の提出は贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までに必ず行わなければなりません。もし遅れた場合は、一定の場合を除き、たとえ非課税枠の条件を満たしていても制度を利用できませんので、くれぐれも注意してください。

書類

非課税制度の利用で必要となる書類は各個人で異なりますが、たとえば以下の書類を求められることが多いです。

  • 住宅取得等資金贈与の非課税の適用を受ける旨を記載した贈与税の申告書
  • 戸籍謄本
  • 登記事項証明書
  • 新築や取得の契約書の写し

国税庁のホームページでは、非課税制度を利用するためのチェックシートも公開されています。
このチェックシートを活用すると、自分が添付すべき必要書類がわかりますので、参考にされるとよいでしょう。

非課税制度を利用する際の注意点

小規模宅地等の特例が使えなくなる

住宅取得資金を贈与して子や孫が住居を取得した場合、「小規模宅地等の特例」が使えず、結果的に支払うべき税金が増えるリスクがあります。
小規模宅地等の特例とは、簡単にいえば「亡くなった人が自宅として使っていた土地を、配偶者もしくは同居親族が相続する場合、土地の相続税が8割引きされる」といった特例です。

この特例は、もし配偶者や同居親族がいないと、「3年以上借家に住んでいる別居親族」も受けられるのですが、住宅を取得すると対象外になってしまいます。

【小規模宅地等の特例に関する比較】
被相続人:父
相続人:子(被相続人である父と同居)
相続財産:評価額8,000万円の土地100㎡(※)

  • 実際には相続財産が土地だけのケースはほとんどありません。計算をわかりやすくするため、内容を単純化しています。

①小規模宅地等の特例を適用できなかった場合
課税額:8,000万円-3,600万円(基礎控除額)=4,400万円
相続税額:4,400万円×20%-200万円=680万円

②小規模宅地等の特例を適用した場合
課税額:8,000万円-6,400万円(8,000万円×80%(小規模宅地等特例))-3,600万円(基礎控除額)<0円
相続税額:0円

各個人の状況次第にはなりますが、住宅を取得しないほうが節税につながることもあるため、一度税理士や弁護士に相談することをおすすめいたします。

条件を満たしても申告しないと適用されない

住宅取得資金の非課税制度は、条件をすべて満たしただけでは適用されません。
非課税制度によって、計算上贈与税が0円になったとしても、税務署への申告は必須です。

また、一定の場合を除き、申告期間を経過して書類を提出しても同様に適用外となるため注意しましょう。
申告期間は、「贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日まで」です。申告書の作成や必要書類の準備に時間がかかることありますから、早めに取り掛かることをおすすめします。

住宅取得資金の贈与税をさらに節税する方法がある

夫婦それぞれで非課税枠を利用する

住宅を取得する際、夫と妻が自分の親からそれぞれ資金援助を受けた場合、両方が非課税制度の対象となります。つまり、夫婦合わせて最大2,000万円の非課税枠を利用できるのです。

ただし、住宅の名義は夫と妻の共有名義にしなければなりません。
また、住宅持分割合は、「夫婦それぞれが負担した資金の割合」と同じにしましょう。資金負担に差が生まれると、贈与税が発生するおそれがあります。

ほかの非課税枠と併用する

住宅取得資金の贈与には、以下の非課税枠を併用することができます。

贈与税の非課税枠

基本的に、贈与税は年間110万円までは非課税になります。この非課税枠は、住宅取得資金の非課税枠と併用することが可能です

相続時精算課税制度

相続時精算課税制度とは、生前の贈与については合計で2,500万円までは課税されず、贈与者が亡くなったときに相続税として一括で支払う制度のことです。また、こちらの制度にも年間110万円の非課税枠が設けられています。

この制度の利用には届け出が必要で、一度利用すると通常の暦年課税には戻れなくなるという注意点があります。また、相続時の一括精算となるため、相続税の負担が増加するリスクもあります。
しかし、住宅取得資金の非課税制度と併用することで、最大3,610万円の贈与を非課税にすることができます。

住宅ローンの所得税控除

ローンを組んで住宅を購入した場合には、住宅ローン所得税控除も併用できます。
具体的には、ローンの年末残高と取得対価のいずれか少ないほうの金額の1%を所得税から控除できますので、さらなる税負担の軽減が期待できます。

住宅を親と子の共有名義で購入する

住宅を親と子の共有名義で購入すると、住宅取得資金贈与の非課税制度を使うより節税効果が大きくなるケースがあります。

購入した住宅の一部は親が亡くなったときに相続税の対象になりますが、住宅の評価額は経年劣化などによって下がっていくため、相続時には税額は低く抑えられる場合があるからです。

共有名義での購入なら生前贈与にはあたらないため、非課税枠の限度額を気にすることなく、子や孫へ援助することができます。
もちろん、金額次第でどちらのほうが得になるのか変わってきますので、1つの方法としてお考えください。

住宅取得資金の贈与税でお困りなら専門家へ

お子さんやお孫さんのために、マイホームの資金を援助したい方は少なくありません。また、せっかく援助してもらうからには、支払う税金はできるだけ低く抑えて受け取りたいものです。

住宅取得資金の非課税枠はそういった方々の助けになる制度ですが、なかにはほかの制度を利用したほうがよい場合もあるなど、判断に困る場面も多いでしょう。
ご自身にとって最適な選択をするために、ぜひ一度税理士などの専門家へご相談ください。

松尾 大志
この記事の監修者
協力税理士
松尾 大志
資格
税理士
出身大学
高知大学人文学部

相続は、人生における大きな出来事の一つであり複雑な手続きを伴います。たいせつなひとをお送りしたあとで、一定の期間内に様々な作業を行っていかなければなりません。心労を抱えた中での作業は難しいこともあろうかと存じます。相続税申告に関するご不明な点やご不安な点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

遺言・遺産相続の弁護士コラム一覧

遺言・遺産相続に関する
ご相談は何度でも無料です。

トップへ戻る