遺言・遺産相続の弁護士コラム

遺言書がある場合の相続では何をする?必要な手続などを解説

遺言

相続の際、遺言書がある場合は、基本的にはその遺言書どおりに相続を行うことになります。
ただし、遺言書の内容を実現するためには、遺言書の検認や法的有効性の確認など、必要な手続を行わなければなりません。

そこで本記事では、遺言書がある場合に必要となる具体的な相続手続について詳しく解説します。
そのほか、「遺言書の内容に従わなくてもよいケース」や、「遺言書の内容に不満がある場合の対処法」についてもご説明します。相続手続を円滑に進めるために、ぜひ参考にしていただければ幸いです。

この記事でわかること
  1. 遺言書がある場合に必要となる相続手続
  2. 遺言書がある場合でも、従わなくてよいケース
  3. 遺言書の内容に不満があるときの対処法

遺言書がある場合に必要な相続手続は?

相続が発生したとき、遺言書が見つかっている場合、原則としてはその内容に従って相続手続を進めます。亡くなった人は、遺言によって自分の思うように財産を処分することが法律的に認められているのです(民法964条)。
では、その遺言内容を実現するために必要となる相続手続を詳しく見ていきましょう。

①相続人や相続財産を調査する

最初に行うべきは、相続人と相続財産の調査です。遺言書に記載された相続人だけでなく、法定相続人も含めて確認します。また、不動産、預貯金、株式などの遺産をすべてリストアップし、その評価額を把握します。

最初の段階で詳細な調査を行うことは、のちの手続を円滑に進めるために非常に重要となってきます。
たとえば、遺言書に「長男にすべての不動産を相続させる」と記載があり、ほかに相続人がいないと決めつけて手続を進めていたら、あとからほかの相続人の存在が発覚した場合、トラブルに発展するかもしれないのです。

②遺言書の存在をほかの相続人に通知する

遺言書が見つかった場合、その存在を速やかにほかの相続人に通知する必要があります。
通知が遅れると、相続手続に支障が出てトラブルの原因となる可能性があるため、早めに行うべきです。
また、万が一通知をしないままでいると、遺言書の存在をほかの相続人に隠したとみなされ、相続権を失うおそれもあるため(民法891条5号)、忘れずに行うようにしましょう。

③遺言書の検認や法的有効性の確認をする

遺言書の内容に基づく相続手続を進めるためには「検認」が必要です。
検認とは、相続人全員の立ち会いのもと、遺言書を開封してその状態や内容を確認する手続のことで、必ず家庭裁判所で行われます。この検認を行わないと、亡くなった方の財産を配分したりすることができません。
ただし、検認が必要なのは、法務局の保管制度を利用していない場合の自筆証書遺言(遺言者が自分一人で作成することができる遺言書)と、秘密証書遺言(遺言書の存在だけを公証役場で証明し、内容は秘密の遺言書)の場合です。
公正証書遺言(公証役場で公証人によって作成される遺言書)の場合は、すでに公な証明がされているものとして、検認手続は不要になります。

また、検認では遺言書の法的有効性については担保されません。検認の主な目的は、遺言書の偽造などを防ぐことだからです。
そのため、検認をしていたとしても、場合によっては遺言書が無効になることもあります。遺言書が有効かどうかを確かめるポイントを、いくつかご紹介します。

  • 全文を自筆で書かれているか
  • 作成日付が明記されているか
  • 署名・押印はされているか
  • 訂正のルールを守られているか

有効な遺言書の書き方について詳しく知りたい方は、以下のコラムもご覧ください。

④預貯金の引き出しや不動産の名義変更をする

遺言書の有効性が確認できたら、預貯金の引き出しや不動産の名義変更など、具体的な相続手続を進めていきます。
たとえば、亡くなった方の銀行口座に預けられた現金を引き出す場合、銀行からは遺言書のほかに以下のような書類を求められることがあるため、事前に準備しておきましょう。

  • 検認調書または検認済証明書
  • 被相続人の死亡が確認できるもの(戸籍謄本など)
  • 預金を相続する人の印鑑証明書

また、不動産の場合は、亡くなった方から相続人への名義変更などが必要となります。名義変更には、遺言書の原本や相続人の戸籍謄本などの提出を求められます。

⑤相続税の申告と相続登記をする

必要な手続を経て遺産を相続できても、全額をそのまま受け取れるとは限りません。遺産相続には、相続税が設定されているためです。
ただし、相続税にはさまざま控除制度も設けられているため、実際に相続税が発生するのは、その控除額を超える場合になります。

相続税が発生したら、税務署で申告手続を行わなければなりません。期限は被相続人が死亡したことを知った日(通常は、被相続人の死亡の日)の翌日から、10ヵ月以内です。
相続税の申告には、たくさんの複雑な書類が必要となるため、基本的には税理士などに相談して進めたほうがよいでしょう。

また、土地や建物など不動産を相続した場合は相続登記が必要です。相続登記は、2024年4月1日から義務化されました。
原則として不動産を相続で取得したことを知った日または遺産分割協議の成立日から3年以内に、相続登記の申請を行わなければなりません。
義務化前に発生した相続なら、原則として不動産を相続で取得したことを知った日、または2024年4月1日のどちらか遅い日から3年以内に相続登記の手続を行わなければなりません。
正当な理由なく登記の手続を行わない場合は、10万円以下の過料が科される可能性があるため、必ず期限内に手続を行いましょう。

遺言書がある場合、相続手続は遺言執行者が行う

先ほどご説明してきた相続手続は、必ずしも相続人が行うわけではありません。
遺言書によって、「遺言執行者」が指定されている場合、その人物が遺言の内容に基づいて相続手続きを進めるように定められているからです。

遺言執行者は、遺言書に記載された内容を忠実に実行する役割を担います。そのため、遺言書の執行に必要なさまざまな権限が与えられており、たとえば以下の内容を実施することができます。

  • 預貯金の払い戻し、相続人への分配
  • 株式の名義変更
  • 不動産の所有権移転登記
  • 貸金庫の開扉

遺言執行者が指定されていない場合は?

遺言執行者が指定されていない場合には、相続人全員が共同で相続手続を進める必要があります。相続人全員が、遺言の内容に納得し、手続きに協力的であれば、遺言執行者がいなくても特段の支障がないといえます。

ただし、遺言書に「相続人廃除や廃除の取り消し」や「子の認知」などの内容があった場合は、遺言執行者がいなければ手続を行うことができません。
遺言執行者を選任してもらえるように、家庭裁判所で所定の手続を行いましょう。

遺言書がある場合でも、従わなくてよいケースは?

遺言書がある場合でも、その内容に必ずしも従わなければならないわけではありません。特定の条件下では、遺言書の内容を無視して相続手続を進めることが可能です。
ここでは、その具体的なケースについて解説します。

相続人および受遺者全員が合意した場合

すべての相続人および受遺者(遺言によって財産を受け取る人)の同意があれば、遺言書の内容に従わずに、遺産を自由に分割することが可能です。

たとえば、遺言書に「長男にすべての不動産を相続させる」と記載されていても、すべての相続人と受遺者が合意すれば、不動産をほかの相続人に分割することができます。
このとき、のちに無用なトラブルに発展することを防ぐために、全員一致の合意書を作成しておくようにしましょう。

遺言書が無効だった場合

遺言書が法的に無効と判断された場合、遺言書の内容に従う必要はありません。
無効となる理由には、「有効な遺言書のルールが守られていない」ことはもちろん、「遺言を作成する際、遺言者に意思能力がなかった」ことなども挙げられます。

遺言書が無効だった場合は、相続人同士で遺産分割協議を行って、配分を話し合うことになります。その際、法律によって定められた「法定相続分」が、分割の基準とされることが多いです。

遺言書はあるけど、内容に不満があるときは?

遺言書の内容に納得がいかない場合、そのまま受け入れる必要はありません。
不満がある場合に取るべき具体的な対策や手続について、以下で詳しく説明します。

遺産分割協議をする

遺言書の内容に不満がある場合は、相続人全員に呼びかけ、遺産分割協議を行うという方法があります。この遺産分割協議で、相続人全員の合意を得ることができれば、遺言書どおりに遺産分割しなくて済むのです。
たとえば、遺言書に「次男にすべての預貯金を相続させる」と記載されていても、全員で協議を行い、預貯金を公平に分配するという合意さえ得られれば、遺言書の内容に従わない分割が可能になります。

また、遺産分割協議は、遺言書の内容に不満があるときだけでなく、遺言書に記載された分割内容が曖昧だったり、遺言書にはない財産 が見つかったりしたときなども、実施する必要があります。

遺留分が侵害されていないか確認する

遺言書で指定された分割内容が大きく偏っている場合、「遺留分」が侵害されている可能性があります。遺留分とは、法律によって最低限保証されている取り分のことです。
遺留分を侵害している場合、その取り分を取り戻すために、遺留分侵害額請求を行うことができます。

たとえば、遺言書に「全財産を友人に相続させる」と記載されている場合、法定相続人(たとえば配偶者や子ども)は遺留分侵害額請求を行うことができます。この請求が認められれば、遺産の一部を取り戻すことが可能です。

遺留分侵害額請求について詳しく知りたい方は、以下のコラムもご覧ください。

相続手続でお困りの方はアディーレへ

遺言書がある場合、その内容を実現するためにさまざまな相続手続を進めていくことになります。
しかし、必要な手続の数は多く、専門的な知識がなければスムーズに進めるのが難しい場合も少なくありません。

アディーレでは、遺言・遺産相続に関するご相談・ご依頼を積極的に承っております。また、相続で必要になる主な手続をまとめてお受けするプランもご用意しています。
「遺言書が見つかったけど、どんな手続をすればいいんだろう」と、お困りの方はぜひ一度お問合せください。
アディーレなら、遺言・遺産相続に関するご相談は何度でも無料です。

橋 優介
この記事の監修者
弁護士
橋 優介
資格
弁護士、2級FP技能士
所属
東京弁護士会
出身大学
東京大学法学部

弁護士の職務として特に重要なことは、「依頼者の方を当人の抱える法的問題から解放すること」であると考えています。弁護士にご依頼いただければ、裁判関係の対応や相手方との交渉などは基本的にすべて弁護士に任せられます。私は、弁護士として、皆さまが法的な心配をせず日常生活を送れるように、陰ながらサポートできる存在でありたいと考えています。

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