遺言・遺産相続の弁護士コラム

遺族年金は改正が議論されている?男女差の解消や廃止の可能性について解説

相続手続

遺族年金とは、遺族の生活を保障するために支給される年金のことですが、実は男女によってもらえる条件や内容が異なっています。実際、その男女差によって年金を受給できなかった男性が、裁判を起こした例もあります。
ほかにも、SNS上では「遺族年金の廃止が議論されている」といううわさが話題になることもあるなど、遺族年金が多くの関心を集めています。

そこで本記事では、「遺族年金のどこに男女差が生まれているのか」といった点をはじめ、「もし男女差が改正されるとしたら、どういう方向性が考えられるか」、「遺族年金の廃止は本当に議論されているか」などについて詳しく解説しています。

この記事でわかること
  1. 現行の遺族年金で男女差がある内容
  2. 遺族年金の男女差が改正される場合の方向性と影響
  3. 遺族年金の廃止は本当に議論されているのか

遺族年金とは

遺族年金とは、公的年金の被保険者または被保険者であった方が亡くなったときに、その方によって生計を維持されていた遺族が受けることができる年金です。
また遺族年金には、遺族基礎年金と遺族厚生年金の2種類がありますが、亡くなった方の年金の加入状況などによっては、両方が支給される場合もあります。

この遺族基礎年金と遺族厚生年金には、受給要件や受給対象者、受け取れる年金額などに違いがありますので、以下で詳しくご説明します。

遺族基礎年金の受給対象者と年金額

<受給対象者>

死亡した方に生計を維持されていた以下の遺族が受け取ることができます。

  1. 子のある配偶者
  2. 子(※)
  • 18歳になった年度の3月31日までの方、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある方に限ります。

<年金額>

●子のある配偶者が受け取るとき
昭和31年4月2日以後生まれの方は「81万6,000円 + 子の加算額」、昭和31年4月1日以前生まれの方 は「81万3,700円 + 子の加算額」となります。

●子が受け取るとき
次の金額を子の数で割った額が、1人あたりの額となります。

81万6,000円+2人目以降の子の加算額

  • 1人目および2人目の子の加算額 各23万4,800円
  • 3人目以降の子の加算額 各78,300円

遺族厚生年金の受給対象者と年金額

<受給対象者>

死亡した方に生計を維持されていた以下の遺族のうち、最も優先順位の高い方が受け取ることができます。

  1. 子のある配偶者
  2. 子(※1)
  3. 子のない配偶者(※2)
  4. 父母
  5. 孫(※1)
  6. 祖父母

①の子のある妻または子のある55歳以上の夫が遺族厚生年金を受け取っている間は、②の子には遺族厚生年金は支給されません。

③の子のない配偶者の場合、夫の死亡時に30歳未満であった妻は、5年間のみ受給できます。夫は55歳以上である方に限り受給できますが、受給開始は60歳からとなります。(※2)

④の父母、⑥の祖父母は55歳以上である方に限り受給できますが、受給開始は60歳からとなります。

  • ※1 18歳になった年度の3月31日までの方、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある方に限ります。
  • ※2 子のない夫は遺族基礎年金を合わせて受給できる場合に限り、55歳から60歳の間であっても遺族厚生年金を受給できます。

<年金額>

遺族厚生年金の年金額は、死亡した方の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3の額となります。

老齢厚生年金の報酬比例部分というのは、死亡した方の一定期間における給与や賞与の平均額をもとに計算されるため、平均の給与や賞与が多い人ほど、遺族厚生年金の金額も大きくなります。

<中高齢寡婦加算>

次のいずれかに該当する妻が受ける遺族厚生年金には、40歳から65歳になるまでの間、61万2,000円(年額)が加算されます。これを「中高齢寡婦加算」といいます。

  1. 夫が亡くなったとき、40歳以上65歳未満で、生計を同じくしている子がいない妻
  2. 遺族厚生年金と遺族基礎年金を受けていた子のある妻が、子が18歳到達年度の末日に達した(障害の状態にある場合は20歳に達した)等のため、遺族基礎年金を受給できなくなったとき

<経過的寡婦加算>

次のいずれかに該当する場合に、遺族厚生年金に一定の金額が加算されますが、これを「経過的寡婦加算」といいます。

  1. 昭和31年4月1日以前生まれの妻に65歳以上で遺族厚生年金の受給権が発生したとき
  2. 中高齢の加算がされていた昭和31年4月1日以前生まれの遺族厚生年金の受給権者である妻が65歳に達したとき

先ほどの中高齢寡婦加算は、65歳になると支給が終わり、代わりに老齢基礎年金が支給されるのですが、場合によっては中高齢寡婦加算の額より少なくなることがあります。
その差額を埋めるために支給されるのが、経過的寡婦加算です。そのため経過的寡夫加算の額は、老齢基礎年金(※)と合わせて、今まで受給していた中高齢寡婦加算の額と同じになるように支給されます。

  • 昭和61年4月1日から60歳に達するまで国民年金に加入した場合の金額

遺族年金には男女差がある

遺族厚生年金は「受給対象者」と「中高齢寡婦加算・経過的寡婦加算」の2点で妻と夫で大きく異なります。
遺族厚生年金は、まだひと昔前の収入モデル(夫が外で働き、妻が専業主婦として家庭を守るかたち)をもとにした制度になっており、男女差が残っているのです。
なお、遺族基礎年金も以前は男女差がありましたが、現在ではすでに解消されています。

遺族年金について妻と夫で異なる点

<受給対象者>

夫の場合、55歳以上の方が受給対象者となります。
つまり、妻を亡くしたときに54歳以下だった場合、遺族厚生年金は受給できないのです。

一方、子のない妻の場合は、先ほどご説明したように、夫の死亡当時妻が30歳未満の場合には5年間しか受給できないという制限はあるものの、夫の場合のように55歳以上という限定はありません。

この男女差については、「遺族補償年金について、夫だけに受給資格の年齢制限があるのは憲法違反だ」などとして、妻を亡くした男性が国を訴えた事例がニュースで取り上げられるなど、問題視する声が高まりつつあります。

<中高齢寡婦加算・経過的寡婦加算>

夫には、「中高齢寡婦加算・経過的寡婦加算」という特別な年金の加算がありません。
先ほどもご説明したように、妻の場合には、条件を満たせば中高齢寡婦加算・経過的寡婦加算を受け取れるため、もらえる金額にもある程度の差が生まれてくるといえます。

子どもの有無で状況が変わる

ただし、18歳未満の子どもを養育している場合、事実上男女差は生じないことになります。
というのも、仮に夫が妻の死亡当時55歳未満で、遺族厚生年金が受け取れないとしても、子どもは受け取ることができるからです。
その場合、夫が遺族基礎年金を、子どもが遺族厚生年金をそれぞれ受け取ることによって、トータルの金額で考えれば、妻の場合と大きな差はありません。

遺族年金の男女差は改正される?

遺族年金の男女差について整理をすると、以下のとおりとなります。

  1. 遺族基礎年金については、すでに制度が改正されており、男女差は解消されている
  2. 遺族厚生年金については、遺された配偶者の受給要件について男女差がある

これらの男女差について、どういった改正の方向性があるか、そして実際に改正された場合はどうな
るのかなどについて考えてみましょう。

改正の方向性は?

①子のある配偶者への給付について

現行制度では妻は全年齢に対して、夫は55歳以上という年齢要件の男女差がありますが、夫も全年齢受給可能にして男女差をなくすことが考えられます。

子どもの養育という面では、妻と夫で責任が変わることはなく、また憲法が掲げる男女平等の観点からも男女差を設ける必要はないと考えられるからです。

②子のない配偶者への給付について

現行制度では、妻は全年齢(ただし、30歳未満で死別の場合には5年間限定の有期給付)・夫は55歳以上という男女差がありますが、これを男女同一の要件にして5年間限定の有期給付とすることが考えられます。
実際に厚労省は、配偶者が亡くなったときに60歳未満かつ子どもがいない人は、性別にかかわらず受給できるようにし、期間は5年間とする方向で検討に入っています。

というのも、「男性だけが働いて、収入を得ている」という社会構造はひと昔前の話であり、現代は男女がそれぞれ家計を担う共働き世帯が一般的になってきています。
そのため、男女によって受給要件に差を設けるのは、現代社会の実態に即していないと考えられるからです。

③中高齢寡婦加算の見直し

中高齢寡婦加算は、条件を満たす妻についてのみ支給されるものであり、夫はもらえない制度であるため男女差が指摘されています。
そのため、中高齢寡婦加算の廃止や、もしくは遺族厚生年金にも死亡一時金を支給する案などが検討対象となり得ます。

実際に改正された際の影響は?

①子のある配偶者への給付について

年齢要件に関する男女差をなくすことで、より多くの父子家庭が遺族厚生年金を受給できるようになるでしょう。
ただし、先ほどご説明したように、18歳未満の子どもがいる場合はその子どもが遺族厚生年金を受け取るため、金額面で大きな変化や影響はありません。

しかし、受け取り先が夫になることで、妻との男女差が名目上でも解消されることになります。

②子のない配偶者への給付について

①と同様、年齢要件に関する男女差をなくすことで、より多くの男性(寡夫)が遺族厚生年金を受給できるようになると考えられます。
そして、仮に妻が家計の大半を担っていたようなケースでも、遺族厚生年金の支給によって、新しい生活の準備を以前より余裕を持って進められるようになるでしょう。

ただし、現在検討に移っている「配偶者が亡くなったとき60歳未満かつ子どもがいない人は、性別にかかわらず受給し、期間は5年」という内容で実際に改正された場合は注意が必要です。

そのため厚労省は、「妻の受給期間の短縮は段階的に行う」、「すでに受け取っている人は制度改正の対象としない」といった内容で調整予定のようです。
また、5年間の受給額を現行制度より増やすことも検討されています。

③中高齢寡婦加算の見直し

中高齢寡婦加算が廃止されれば、なかには生活が困窮する女性が出てくるでしょうし、今まで支給されていた家庭との差について不満も出てきます。
かといって、夫にも支給するのは財源の点から難しいはずです。

したがって、遺族厚生年金に死亡一時金を支給するなど、段階的な移行措置が求められるはずですが、それでも家計が苦しくなる世帯については、別途支援制度を検討する必要が出てくるかもしれません。

男女差以外に議論されていること

無期給付の見直し

遺族年金は、一部の例外を除き、支給要件を満たす限りは無期限の給付となっています。
しかし、遺族年金の位置付けとして、高齢期の生活保障とするのではなく、配偶者の死亡直後の生活の激変に対処するための給付として整理し直すなどの観点から、遺族年金を有期限の給付とすることが検討されています。

収入要件の見直し

遺族年金は亡くなった方によって「生計を維持」されていた遺族が受給できるものであり、「生計を維持」されていたかどうかの認定に際しては遺族の年収が考慮されます。
現行制度では、前年の収入が850万円未満であることという収入要件がありますが、遺族年金の有期化とセットにして収入要件を撤廃してよいのではないかという意見が出されています。

老齢厚生年金との併給

65歳以上の遺族厚生年金の受給権者が、自身の老齢厚生年金の受給権を持っている場合、老齢厚生年金は全額支給となり、遺族厚生年金は老齢厚生年金に相当する額の支給が停止となります。

たとえば、遺族自身の老齢厚生年金が月9万円あり、配偶者の遺族厚生年金が月10万円である場合には、遺族が受給できる年金額の合計は、9万円+10万円=19万円とはならず、遺族自身の老齢厚生年金9万円に、遺族厚生年金10万円との差額である1万円を加えた合計10万円にとどまるということになります。

支給停止の仕組みがあることで、もらえる年金額が大きく減少してしまうおそれがあるため、このような支給停止をなくす改正を行うことも検討対象に加わる可能性があります。

父母・祖父母への支給の見直し

遺族厚生年金の場合、亡くなった方の父母や祖父母も受給対象者となる可能性があります。
しかし、家族のあり方の変遷や高齢者の年金受給状況の変化などを踏まえると、父母・祖父母の生活保障については遺族年金以外の制度で対応すべきではないかとの指摘がなされています。

同性パートナーへの支給

現行の日本の法律では、いわゆる同性婚は認められていません。
しかし、性の多様性を尊重しつつある社会の変化に合わせ、同性パートナーについても、年金制度上の配偶者として扱うことも検討すべきとの指摘がなされています。

遺族年金の廃止も議論されている?

遺族年金の廃止は、現状明確に議論されているわけではありません。
しかし、遺族年金の制度の各部分について見直しの議論が進められていること自体は確かです。
今後の家族のあり方、女性の働き方、年金財政の状況などによって、制度が見直され、ご自身が将来受け取ることのできる年金の条件や給付の内容に大きな変更が生じる可能性も決してゼロではありません。

年金制度の改正に向けた議論は今後も行われていきますので、議論の状況はぜひ注視しておきたいところです。

遺族年金や遺産相続のことならアディーレへ

本来、遺族年金は働き手を亡くした配偶者や子どもが今後の生活に困らないように設けられた制度です。そういった目的を果たすためにも、制度改正に向けた議論は続けられていますので、今問題となっている男女差なども徐々に解消されていくかもしれません。

しかし、残念ながら現行制度では、十分な保障を受けられないケースがあるのも事実です。また、自分がどれだけ遺族年金を受け取れるのか、そもそもどうやって申請すればいいのかわからない場合もあるでしょう。

アディーレなら、遺言・遺産相続のご相談は何度でも無料です。
遺族年金や、そのほか遺産相続に関するお困りごとがあれば、お気軽にご相談ください。

橋 優介
この記事の監修者
弁護士
橋 優介
資格
弁護士、2級FP技能士
所属
東京弁護士会
出身大学
東京大学法学部

弁護士の職務として特に重要なことは、「依頼者の方を当人の抱える法的問題から解放すること」であると考えています。弁護士にご依頼いただければ、裁判関係の対応や相手方との交渉などは基本的にすべて弁護士に任せられます。私は、弁護士として、皆さまが法的な心配をせず日常生活を送れるように、陰ながらサポートできる存在でありたいと考えています。

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