相続税の配偶者控除とは?免除額や適用条件、デメリットについて解説
相続税における配偶者控除とは、配偶者が取得する相続財産が「1億6,000万円以下」または「配偶者の法定相続分以下」の場合に、相続税が免除される制度です。
適用される金額が大きく節税効果の高い制度ですが、利用するにはいくつか条件を満たす必要があります。また、単純に利用するだけではかえって損をしてしまうおそれもあります。
そこで本記事では、配偶者控除の概要や適用条件、配偶者控除のデメリットについて詳しく解説します。また、配偶者控除に関するよくある疑問についてもお答えしていますので、配偶者控除の利用をお考えの方はぜひ参考になさってください。
- この記事でわかること
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- 配偶者控除が適用される条件
- 配偶者控除のデメリット
- 期限内に配偶者控除を申請できない場合の対処法
- 目次
相続税の配偶者控除とは?
相続税の配偶者控除とは、配偶者の相続した遺産の額が「1億6,000万円以下」または「配偶者の法定相続分以下」の場合に、相続税が課されない制度のことです。
また、相続税は遺産の全体にまとめて課税されるのではなく、遺産を取得した相続人ごとに課税されるものです。つまり、「1億6,000万円以下」または「配偶者の法定相続分以下」といった条件は、配偶者個人の相続分を基準にされるため、配偶者がいくらの遺産を相続するかが大きな意味をもつことになります。
相続税の配偶者控除が適用される条件
相続税の配偶者控除が適用される条件は、主に以下の4つです。
- 法律上の配偶者であること
- 相続税の申告を行うこと
- 遺産の分割方法がすでに決まっていること
- 税務署から申告漏れが指摘された財産ではないこと
①法律上の配偶者であること
配偶者控除の適用が受けられるのは、亡くなった方と正式な婚姻関係にある配偶者のみであり、すでに離婚した方や内縁関係の方は含まれません。
②相続税の申告を行うこと
配偶者控除の適用を受けるためには、相続税の申告書に配偶者控除の適用を受ける旨を記載し、申告書を含めた所定の必要書類を提出することが必要です。
配偶者控除の適用によって相続税の納税が不要になる場合であっても、申告自体は必要ですので注意しましょう。
③遺産の分割方法がすでに決まっていること
相続税を申告する前提として、遺産をどのように分けるかが決まっていなければなりません。
相続人が複数人いる場合には、相続人間での話合いによって遺産をどのように分けるか決めておく必要があります。
なお、相続税の申告期限(被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヵ月以内)までに、遺産分割の話合いが終わらない場合の対応方法についてはあとでご説明します。
④税務署から申告漏れが指摘された財産ではないこと
税務署の税務調査によって、故意に申告していなかった遺産が判明する場合があります。
この場合、修正の申告を行わなければなりませんが、税務署の指摘を受けて新たに申告する遺産については配偶者控除の適用を受けることはできません。
相続税の配偶者控除を受ける方法や必要書類
配偶者控除の適用を受ける場合、相続税の申告期限までに申告手続を行う必要があります。
主な必要書類としては以下のとおりです。
相続税の申告書 | 配偶者控除の適用を受ける旨や税額軽減の詳細などを記載します |
戸籍謄本等 | 本籍地のある役所窓口、もしくは郵送によって取得します |
配偶者の取得した財産がわかる資料 | 「遺言書」や「遺産分割協議書」の写しなどが該当します |
相続人全員の印鑑証明書 | 遺産分割協議書の写しを提出する場合に必要となります |
相続税の配偶者控除を適用した際の計算例
<ケース>
遺産総額:9億円
相続人:配偶者、長男、次男
遺産分割割合:配偶者が3分の1、長男が3分の1、次男が3分の1
<計算例>
配偶者が実際に取得する遺産は、9億円×3分の1=3億円です。
この場合、1億6,000万円を超えています。しかし、配偶者の法定相続分(今回のケースでは、相続人に子が含まれるため2分の1)に相当する4億5,000万円を下回っています。
そのため、結論としては配偶者控除の適用により相続税は発生しません。
なお、詳細な計算の過程を示すと以下のとおりになります。
課税価格の合計額 | 9億円 |
基礎控除額 | 4,800万円(=3,000万円+600万円×3人) |
課税遺産総額 | 8億5,200万円(=9億円―4,800万円) |
相続税の総額 | 3億870万円 |
各自の相続税額 | 配偶者:0円 (1億290万円が、配偶者控除適用により0円に) 長男:1億290万円 次男:1億290万円 |
相続税の詳細な計算方法について知りたい方は、以下のコラムをご覧ください。
相続税における配偶者控除のデメリット
配偶者控除のデメリットは、二次相続発生時に子どもの相続税の負担が増える可能性があることです。
二次相続というのは、複数の相続が相次いで発生している場合に2番目に発生した相続のことをいいます。
たとえば、最初に父が亡くなり、そのあとに母が亡くなったような場合、父に関する相続が一次相続、母に関する相続が二次相続にあたります。
二次相続の際に子どもの相続税の負担が増えるのは、「配偶者控除が適用できないこと」や「法定相続人が1人減ること」などが原因です。
一次相続と二次相続の合計で考えると、一次相続で配偶者控除を多めに適用したことで、かえって子どもの相続税額が増えてしまう場合があるのです。
二次相続時の税額比較
配偶者控除を利用したことで、子どもの相続税がどれくらい変わるのか、以下のケースをもとに計算してみましょう。
家族構成:父、母、子
一次相続:父(遺産は1億5,000万円)
二次相続:母(遺産は3,000万円)
【一次相続で母がすべての遺産を相続した場合】
母の相続税の額 | 子の相続税の額 | |
---|---|---|
一次相続 | 0円 (配偶者控除が適用されるため) | 0円 (母がすべての遺産を相続するため) |
二次相続 | ― | 4,060万円 |
合計 | 0円 | 4,060万円 |
【一次相続で母が遺産の2分の1、子が遺産の2分の1を相続した場合】
母の相続税の額 | 子の相続税の額 | |
---|---|---|
一次相続 | 0円 (配偶者控除が適用されるため) | 920万円 |
二次相続 | ― | 1,370万円 |
合計 | 0円 | 2,290万円 |
以上のとおり、一次相続のみを見れば、母がすべての遺産を相続した場合の方が子の相続税は少なく済みます。
しかし、一次相続と二次相続の合計で見ると、一次相続で母と子が遺産の2分の1ずつ相続した場合の方が、子の相続税は1,770万円も安くなります(※)。
このように、配偶者控除の適用を受けるにあたっては、その後の二次相続のことなども見越してどう遺産を分けるかを検討したほうがよいのです。
- ※ 今回のケースでは相次相続控除(10年以内に複数の相続が相次いで発生した場合に適用できる控除)を考慮していません。 具体的な事例ごとの正確な金額については、税理士などの専門家に相談して確認することをおすすめします。
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相続税の配偶者控除に関する疑問
配偶者控除は相続税の申告期限のあとでも適用できる?
相続税の配偶者控除の適用を受けるためには、原則として申告期限内に相続税の申告を行う必要があります。しかし、相続税の申告期限である10ヵ月以内に遺産分割協議がまとまらないことも珍しくありません。
その場合、10ヵ月の期限内に「相続税の申告書の提出期限から3年以内に分割する旨」を届け出ておくことで、のちに配偶者控除の適用を受けられる余地を残すことができます。
具体的には、「申告期限後3年以内の分割見込書」を相続税の申告書とともに提出しておきます。
そのうえで、遺産分割が完了してから4ヵ月以内に更正の請求(納めすぎた税金の返還を求める手続)を行う必要があります。
ただし、当初の相続税申告の段階では配偶者控除の適用を受けることはできないので、一度相続税を納める必要があることに注意が必要です。
10ヵ月以内に遺産分割が完了しない場合の流れ
先ほどご説明した手続について、順番に整理すると以下のようになります。
①被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヵ月以内に行うこと
・相続税申告書の提出(※)
・「申告期限後3年以内の分割見込書」の提出
・相続税の納税(※)
- ※ いったん配偶者控除の適用はなし
② ①の申告期限から3年以内に行うこと
・遺産分割の完了
③ ②から4ヵ月以内に行うこと
・更正の請求
遺産分割がそれでも間に合わない場合は?
遺産分割協議が難航し、裁判所を通した手続(調停や審判)まで行っているようなら、3年以内に遺産分割が完了しないこともあり得ます。
この場合、「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請手続」を行うことで、期限をさらに延ばすことができます。
具体的には、「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を、申告期限後3年を経過したときから2ヵ月以内に税務署に提出し、税務署長の承認を受けます。
承認後、裁判が終わるなどして遺産分割ができるようになったときから4ヵ月以内に遺産分割が完了すれば、相続税の配偶者控除の適用を受けることができます。適用を受けたい場合は、先ほどと同様更正請求をしなければなりません。
3年以内に遺産分割が完了しない場合の流れ
先ほどご説明した手続について、時系列に整理すると以下のようになります。
①被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヵ月以内に行うこと
・相続税申告書の提出(※)
・「申告期限後3年以内の分割見込書」の提出
・相続税の納税(※)
- ※ いったん配偶者控除の適用はなし
② ①の申告期限後3年を経過する日の翌日から2ヵ月以内に行うこと
・「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」の提出
・税務署長の承認を受ける
③判決確定の日など、遺産分割ができない事情が解消した日の翌日から4ヵ月以内に行うこと
・遺産分割が完了
④遺産分割が完了した日の翌日から4ヵ月以内に行うこと
・更正の請求
申告後に見つかった遺産でも適用できる?
申告後に新たに遺産が見つかっても、当初の申告内容を修正することで、相続税の配偶者控除を適用できます。
具体的には、相続税の申告後に「修正申告」という手続を行う必要があります。修正申告書などの所定の書類を揃えて、税務署へ提出することになります。
相続税でお困りならアディーレへ
配偶者控除は、配偶者の方の生活を守るために、適用される金額が大きく設定されています。そのため利用する方も多い制度ですが、ご説明したようにデメリットもあります。
そのため「配偶者控除を利用したほうがいいかわからない…」、「配偶者控除の手続について不安がある」といった方は、ぜひアディーレへお問合せください。
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- この記事の監修者
-
- 弁護士
- 橋 優介
- 資格:
- 弁護士、2級FP技能士
- 所属:
- 東京弁護士会
- 出身大学:
- 東京大学法学部
弁護士の職務として特に重要なことは、「依頼者の方を当人の抱える法的問題から解放すること」であると考えています。弁護士にご依頼いただければ、裁判関係の対応や相手方との交渉などは基本的にすべて弁護士に任せられます。私は、弁護士として、皆さまが法的な心配をせず日常生活を送れるように、陰ながらサポートできる存在でありたいと考えています。