遺言執行者とは?役割や選任すべきケース、選任する際の注意点を解説
遺言書を作成する際、「遺言執行者を選任したほうがいいの?」と疑問に思っている方も多いのではないでしょうか?
また、なかには「遺言執行者に指名されたけど、何をすればいいかわからない…」と不安を感じている方もいらっしゃるかもしれません。
遺言執行者とは、遺言書の内容を実現するための手続を行う人であり、手続をスムーズに進めるためにも重要な存在です。その責任はとても大きいため、きちんと役割や必要性を理解しておく必要があります。
そこでこのコラムでは、遺言執行者の概要や義務・権限に加え、その必要性や選任するメリットを解説します。具体的な選任方法や選任する際の注意点などもご紹介していますので、疑問や不安を解消していきましょう。
- この記事でわかること
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- 遺言執行者の役割
- 遺言執行者の必要性と選任するメリット
- 遺言執行者を選任する方法と注意点
- 目次
遺言執行者とは?
遺言執行者とは、遺言書に記載された内容(財産の分け方など)を実現するための手続を行う人のことです。
法律上、「遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する」とされており(民法第1012条1項)、遺言書の内容を実現する役割を担います。
遺言執行者になれる人は?
遺言執行者になる人は、基本的に誰でも構いません。
相続人やその他の親族だけでなく、弁護士や司法書士などの専門家が遺言執行者になることもできます。また、1人だけでなく複数人が遺言執行者になることも可能です。
ただし、未成年者や破産者は遺言執行者になることはできません。
これらに該当するかどうかは、遺言書を作成した時点ではなく、遺言書を残した方が亡くなった時点で判断します。
遺言執行者がやることは?義務と権限
遺言執行者になった人には、遺言内容を実現するために、必ずやらなければならないことがあります。遺言執行者の義務や権限について、以下で詳しく見ていきましょう。
相続人全員への通知
遺言執行者は、その任務を開始したら遅滞なく、相続人に対して遺言書の内容を通知する必要があります(民法第1007条2項)。
具体的には、遺言書の写しを添付のうえ、以下の内容を記載した書面を相続人宛てに送付しましょう。
- 自身が遺言執行者に就任して任務を開始したこと
- 遺言執行の手続を進めていくこと など
相続人への通知は、2019年に法律で義務化されました。
これは、相続人に遺言書の内容や財産状況が知らされないまま遺言執行者が手続を進めたことで、トラブルになるケースが散見されたためです。
財産目録の作成
遺言執行者は、遅滞なく財産目録を作成して、相続人に交付しなければなりません(民法第1011条1項)。
財産目録を作成するには、前提として相続財産の調査が必要です。
財産目録に記載された情報は、相続人にとって、相続の方法を検討するうえで重要なものになるため、漏れなく調査を行いましょう。
財産目録を作成する際、遅れや記載漏れなど重大な過失があると、相続人からの損害賠償請求に発展するおそれもあります。そのため、迅速かつ正確に財産調査と財産目録の作成を行うことが大切です。
遺言の内容を実現するために必要な行為
遺言執行者は、遺言の内容を実現するために、遺言の執行に必要な一切の行為をする権限があります。
具体的には、以下のような行為をすることが可能です。
- 預貯金の払い戻し、相続人への分配
- 株式の名義変更
- 不動産の所有権移転登記
- 貸金庫の開扉 など
このように、遺言執行者は単に管理・監督を行うわけではなく、相続手続に関する行為そのものができます。
また、あとでご説明するように、遺言書の内容に応じて、子どもの認知、相続人の廃除・廃除の取消しなど、相続人の身分にかかわる行為を行うことも可能です。
遺言執行者の必要性と選任するメリット
遺言執行者は、必ず選任しなければならないわけではありません。しかし、遺言執行者を選任すると以下のようなメリットがあります。
遺言の内容を実現できる可能性が高くなる
遺言書がある場合でも、相続人全員が同意すれば、遺言書と異なる内容で遺産を相続することができます。
つまり、遺言書を作成したとしても、相続人が遺言の内容に反する相続をしてしまうおそれがあるのです。
遺言執行者が選任されている場合、遺言執行者の同意がなければ相続人が遺言書の内容に反する相続をすることはできないと考えられています。そのため、遺言執行者を指定しておくことで、遺言の内容どおりに相続を実現できる可能性を高められるのです。
相続手続をスムーズに進められる
遺言執行者は、ほかの相続人の同意を得ることなく、遺言の内容を実現するための各手続を行えます。そのため、結果として相続の手続がスムーズに進むことになります。
遺言執行者に手続を任せられるため、相続人の負担軽減にもつながるでしょう。
相続のトラブルを回避できる
弁護士などの第三者が遺言執行者に就任している場合、中立的な立場で手続できるため、相続人同士の感情的な対立を回避しやすくなります。
ただし、相続人を遺言執行者に選任している場合は、ほかの相続人から「自分に有利に手続を進めようとしているのではないか」と反感や疑念を持たれるケースもあるため注意が必要です。
遺言執行者を選任すべきケース
このように、遺言執行者を選任しなくても相続手続をすることはできます。しかし、以下のようなケースでは遺言執行者の選任が必要です。
認知を行うケース
認知とは、婚姻関係にない男女の間で生まれた子ども(非嫡出子)と法律上の親子関係を生じさせる手続です。
非嫡出子の認知を遺言で行う場合は、遺言執行者を選任しなければなりません。
遺言書で認知した非嫡出子は、相続人となり遺産を受け取れるようになります。
相続人の廃除を行うケース
廃除とは、亡くなった方が相続人から虐待や侮辱を受けていた場合などに、その相続人の相続権を奪う手続です。
相続人の廃除の手続は、生前に行うこともできます。ただし、遺言書によって行う場合には、遺言執行者の選任が必要です。
相続人だけで相続手続をすることが難しいケース
相続人のなかに、認知症の方、手続に非協力的な方、仕事で忙しい方などがいる場合、相続の手続が円滑に進められない可能性があります。
そのようなケースでは、必須ではありませんが、遺言執行者の選任をしておくのがおすすめです。
遺言執行者がいれば、その権限でさまざまな手続ができるため、スムーズに相続手続を進められるでしょう。
遺言執行者を選任する方法
遺言執行者を選任する方法には、以下の2つがあります。
- 遺言者本人が遺言書で指定する
- 相続人が遺言執行者の選任を申し立てる
それぞれ詳しく見ていきましょう。
遺言者本人が遺言書で指定する
遺言書を遺す方自身が遺言執行者を指定する場合、遺言書の文中で、「遺言執行者としてどこの誰を指定するのか」を明記しましょう。
遺言執行者として誰を指定すればよいのかわからない場合は、弁護士などに相談してみることをおすすめします。
それでも誰にするか決められない場合は、遺言によって遺言執行者の指定を第三者に委託することもできるため、あわせて検討しましょう。
相続人が遺言執行者の選任を申し立てる
遺言書を遺す方自身が遺言執行者を選任していなかった場合、相続人が家庭裁判所に申し立てることで遺言執行者を選任できます。
「相続人だけで相続手続をすることが難しいケース」でもご説明したように、相続人のなかに認知症の方や手続に非協力的な方がいる場合には、手続をスムーズに進めるためにも遺言執行者の選任を申し立てたほうがよいでしょう。
遺言執行者の選任の申立手続の概要 は、以下のとおりです。
申立人 | 以下のいずれかに該当する利害関係人 ・相続人 ・遺言を遺した方の債権者 ・遺言による贈与を受けた方 など |
申立先 | 遺言を残した方の最後の住所地の家庭裁判所 |
必要書類 | ・申立書 ・遺言者の戸籍謄本 ・遺言執行者候補者の住民票または戸籍の附票 ・遺言書の写し ・利害関係を証する資料(相続人であることがわかる戸籍謄本など) |
費用 | ・収入印紙(遺言書1通につき800円) ・郵便切手(数百円程度) |
このように申立てにあたっては、申立書や戸籍謄本などの書類の提出が必要になるほか、費用がかかります。
なお、費用は裁判所により異なるため、申立先の裁判所のホームページなどをご確認ください。
遺言執行者を選任する際の注意点
遺言執行者を選任する場合には、以下の点に注意しましょう。
遺言執行者を指名しても就任を拒否 ・辞退される場合がある
遺言書による遺言執行者の選任には、法的な強制力がありません。そのため、指名された人は任務を開始する前であれば自由に就任を辞退できます。
遺言執行者は、業務内容が多く責任重大であるため、就任を辞退されてしまうことも考えられます。そうなると、相続人だけで手続を進めるか、新たに遺言執行者を選任しなければなりません。
よりスムーズに手続を進めるためにも、 遺言執行者を指名する場合には、事前にその方に相談して承諾を得ておいたほうがよいでしょう。
遺言執行者への報酬が発生する
相続人を遺言執行者に選任した場合には報酬が必要ない場合もありますが、専門家などの第三者を遺言執行者に選任した場合には報酬が発生します。
そのため、特に第三者に依頼する際には、事前に報酬について確認しておきましょう。
なお、遺言執行者の報酬の相場は、遺産総額の1~3%程度 といわれており、相続財産のなかから支払われることが一般的です。
場合によっては相続人の負担が増えるおそれがある
遺言執行者を選任すれば手続がスムーズに進みやすいと考えられますが、なかには遺言執行者が業務を怠るケースもあります。
その場合、遺言執行者の解任を検討することになりますが、相続人の話合いだけでは遺言執行者を解任できません。
遺言執行者を解任するには、家庭裁判所に申立てを行い解任の請求をする必要があるため、かえって相続人の負担が増えるおそれがあります。
このような事態にならないようにするためにも、遺言執行者には、信頼できる方や専門家などの第三者を指名するのがよいでしょう。
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遺言執行者に就任したあと辞任できる?
相続が開始したあと遺言執行者になることを一度引き受けてしまうと、正当な事由があり家庭裁判所の許可が得られた場合でなければ辞任できません。
ただし、一度引き受けたあとも第三者に遺言執行者の任務を委託することは可能です。
遺言執行者になったものの、自分で手続を進めることが難しい場合は、弁護士に依頼することを検討したほうがよいでしょう。
遺言書作成や遺言執行に関するご相談はアディーレへ
遺言執行者がいれば、相続人同士のトラブルを防ぎ、遺言内容をスムーズに実現させることが期待できます。しかし、相続に関する手続はとても複雑で、やるべきことも多いです。
未成年者や破産者でなければ誰でも遺言執行者になれる一方で、誰でも職務を全うできるとは限りません。場合によっては、就任を辞退されたり、手続にあたって大きな負担をかけたりしてしまう可能性もあります。
そのため、より確実に遺言内容を実現させたいのであれば、専門家に依頼することも検討したほうがよいでしょう。
また、遺言執行者に指名され一度引き受けたものの、自分で手続を進められない場合も、弁護士などに依頼し任務を委託するのがおすすめです。
アディーレでは、遺言執行者の選任申立てや、遺言執行代理についてご依頼を承っております。
アディーレなら、相続に関するご相談は何度でも無料ですので、「相続人として遺言執行者を選任したい」、「遺言執行者になったものの手続を進められない」などのお悩みがあれば、ぜひ一度ご相談ください。
- この記事の監修者
-
- 弁護士
- 橋 優介
- 資格:
- 弁護士、2級FP技能士
- 所属:
- 東京弁護士会
- 出身大学:
- 東京大学法学部
弁護士の職務として特に重要なことは、「依頼者の方を当人の抱える法的問題から解放すること」であると考えています。弁護士にご依頼いただければ、裁判関係の対応や相手方との交渉などは基本的にすべて弁護士に任せられます。私は、弁護士として、皆さまが法的な心配をせず日常生活を送れるように、陰ながらサポートできる存在でありたいと考えています。