遺産を相続するときの分配方法や分配基準は?相続人の間に優先順位はある?
相続した遺産を分配するには、「法定相続分」と「相続順位」を基準にして行う方法があります。
しかし、必ずしも法定相続分と相続順位に従って分配する必要はありません。別のやり方で分け方を決めることもでき、状況次第で最適な方法は変わってきます。
本ページでは、遺産を相続することになったとき、「分配をどうやって行うか」や「各手続のポイント」などについてご説明します。
複雑な遺産分配の手続をスムーズに進められるよう、ぜひ本ページを参考にしていただければと思います。
- この記事でわかること
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- 遺産を分配する前にしておくべき手続
- 遺言書がある場合とない場合の分配方法
- 遺産の分配や相続に不安があるときの対処法
- 目次
遺産を分配する前に知っておくべきこと
遺産の分配を始める前に、一つ知っておくべきことがあります。
それは、「遺言書があるかどうかで、遺産分配の流れが異なる」という点です。
遺言書がない場合は、相続人たちで話し合って遺産の分配方法や割合を決めていくことになるのが通常です。そのため、誰が相続人にあたるのか、どのような財産があるのか、について事前にしっかり把握しておくことが特に重要になります。
一方で、遺言書がある場合、基本的には遺言書の内容に従って遺産の分配が行われることになります。ただし、遺言書のなかで相続分について細かく決められていない場合など、相続人同士で話合いが必要になることもあります。
遺産の分配に期限はある?
遺産の分配そのものに期限はありません。しかし、相続に関する手続のなかには、期限が定められたものもあります。
そうした手続を行うことを前提とする場合、間接的に、遺産の分配にも期限があるといえるでしょう。
たとえば、相続税申告なら10ヵ月以内という期限があります。相続税申告を行うには、相続人各自の相続税額を算出しなければいけませんが、誰がどう財産を受け継ぐかが決まらなければ、当然算出ができません。
つまり、相続税申告を行う前提として、遺産の分配を完了しておく必要があります。
遺産を分配するまでの手順
遺産の分配を行う前には、以下の手順で進めます。
- 遺言書の有無の確認
- 相続人の調査(遺言書がない場合)
- 遺言書の検認手続(遺言書がある場合)
- 相続財産の調査
- 相続放棄の検討
それぞれの手順について、詳しく見ていきましょう。
①遺言書があるか確認をする
先ほどご説明したように、遺産の分配を行ううえで、遺言書の有無は非常に重要です。遺言書があるかないかで、その後の手続の進め方が大きく変わってくるためです。具体的には、遺言書がある場合は検認手続を、ない場合は相続人の調査を行うことになります。
亡くなった方(被相続人)から遺言書の話を聞いたことがある場合は、その内容を手掛かりにして遺言書を探します。特に話を聞いていない場合は、遺言書がありそうな場所(金庫やタンスのなか、誰かに預けているなど)を漏れなく探してみましょう。
②(遺言書がない場合)相続人の調査
遺言書を探しても見つからない場合は、相続人たちの話合いで遺産の分配を決めることになります。そして、話合いを行うためには誰が相続人かを調査する必要があります。
相続人の調査は、亡くなった方を起点として、各相続人の戸籍謄本を確認することによって行います。
戸籍謄本を確認すると、今まで把握していなかった親族関係が判明することも決して珍しくありません。たとえば、亡くなった方に再婚歴があり実は腹違いの兄弟姉妹がいた、というケースもあります。戸籍謄本の記載をくまなくチェックするようにしましょう。
③(遺言書がある場合)遺言書の検認手続
遺言書がある場合は、まず遺言書の検認手続が必要になります。
「検認」とは、家庭裁判所を通して、「こういう内容の遺言書が確かにありますね」ということを確認してもらう手続です。
目的としては、検認時点の内容を明確にし、その内容を相続人全員に知らせることで、遺言書の偽造・変造を防止するために行います。
そのため、遺言書の有効性を確認することまではできません。たとえ検認手続をしたとしても、遺言書の有効性が争われる場合があることに注意しましょう。
また遺言書は、厳密には以下の3種類に分けられます。
自筆証書遺言 | 遺言書の全文を自筆で作成する遺言書(財産目録は自筆でなくても可) |
公正証書遺言 | 2人以上の証人の立会いのもと、公証役場の公証人に内容を口頭で伝えて作成してもらう遺言書 |
秘密証書遺言 | 遺言書の内容は秘密にしたまま、存在だけを公証役場で証明してもらう遺言書 |
このなかで、「自筆証書遺言」と「秘密証書遺言」は検認手続が必要になります。
ただし、法務局の遺言書保管制度を利用した自筆証書遺言は、預けた時点で公に保管されている状態であるため、検認の必要はありません。
遺言書や、遺言書の書き方について詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。
④相続財産を把握する
遺言書の有無を確認したら、次に行うべきなのが相続財産の把握です。
遺産の分配を決める前提として、亡くなった方にどのような財産があったのかを把握しなければなりません。
相続財産の内容は、亡くなった方の自宅にある通帳類などを確認することである程度把握できますが、遺産の分配を決めるうえでは財産の正確な金額を確認する必要があります。
預貯金であれば銀行から残高証明書などを取り寄せたり、不動産であれば市町村から固定資産税評価証明書などを取り寄せたりといった対応が必要になります。
各種書類の取寄せのためには、所定の申請書類の作成のほか、戸籍謄本の添付なども必要になる場合が多いです。漏れなく対応できるようにしましょう。
⑤相続放棄が必要か検討する
相続財産のなかにマイナスの財産(負債)があり、プラスの財産よりもマイナスの財産の方が多い場合などには、相続放棄を検討したほうがいいでしょう。
相続放棄をするとプラスの遺産も一切相続できないことになりますが、負債を相続したくない場合などには有効な手続です。
ただし、相続放棄には相続の開始を知ってから3ヵ月以内という期限があります。財産の調査に時間がかかりそうで、3ヵ月以内に相続放棄するかどうかを判断できない場合には、期限を延長する手続(熟慮期間伸長の申立て)もあるため、合わせて検討してみましょう。
相続放棄について詳しく知りたい方は以下のページもご覧ください。
遺言書がある場合の遺産分配
遺言書がある場合は、基本的に遺言書の内容どおりに遺産を分配することになります。
遺言書に「誰が」、「どの財産を」、「どのくらい」相続するのかについて明記されており、相続人間で合意が取れていれば、その内容に従って遺産分配を行います。
しかし、なかには詳細を決められていないケースもあるでしょう。
たとえば、「妻に6割、長男に4割」といった大まかな割合しか書かれていない場合や、遺言書に記載がない財産がある場合などです。その場合は、のちにご説明するように相続人間で遺産分割協議を行う必要が出てきます。
遺言書の内容に不満があるときは?
遺言書が一部の相続人にだけ遺産を相続させる内容になっていた場合など、ほかの相続人たちが遺言書の内容に不満を持つこともあり得ると思います。
この場合、ほかの相続人たちから一部の相続人(相手方)に対して、遺留分侵害額請求を行える可能性があります。
「遺留分」とは、相続人たちに法律上保障された最低限の取り分のことです。具体的には、相手方に内容証明郵便を送付したり、家庭裁判所に調停を申し立てたりして、遺留分侵害額を請求していきます。
遺留分について詳しく知りたい方は以下のページもご覧ください。
遺言書がない場合の遺産分配
遺言書がない場合は、分配する方法として以下の2つが考えられます。
- 法定相続分と相続順位に従って分配する
- 遺産分割協議をして分配内容を決める
以下で、それぞれの方法について詳しく見ていきます。
法定相続分と相続順位に従って分配する
遺言書がない場合、遺産を分配する明確な基準がないということになります。
そこで、法律によって定められた「法定相続分」と「相続順位」を基準にして分配する方法があります。
相続人間の話合いで、法定相続分と相続順位どおりに分配することに反対意見が出なければ、銀行の窓口などで相続の手続を行いましょう。たとえば銀行なら、相続人全員の署名捺印のある所定の届出書類、戸籍謄本、印鑑証明書などの準備が必要になります。
法定相続分とは
法定相続分とは、民法において定められている、誰がどれだけ相続の権利を有しているかの割合のことです。
相続人の組み合わせによって、法定相続分は異なります。たとえば、以下のようなケースで考えてみましょう。
例①:妻・長男・次男が相続人の場合
妻:長男:次男=2:1:1
例②:妻・父・母が相続人の場合
妻:父:母=4:1:1
相続順位とは
相続順位とは、配偶者以外の法定相続人(相続する権利を持つ人)のうち、誰が相続人になるかを決める際の優先順位です。優先順位の高い人が相続人になれば、低い順位の人は相続人になれません。
具体的な順位は、民法で以下のとおり定められています。
第一順位:亡くなった方の子(子が先に亡くなっている場合は孫以下)
第二順位:亡くなった方の直系尊属(親や祖父母など)
第三順位:亡くなった方の兄弟姉妹(兄弟姉妹が先に亡くなっている場合は甥姪)
遺産分割協議をして分配内容を決める
法定相続分と相続順位を基準とせずに、相続人全員で話合いをして決める方法もあり、それが「遺産分割協議」です。
遺産の内容をすべて把握したうえで、相続人間で遺産をどう分配するかの話合いを行い、「誰が」、「どの財産を」、「どのくらい」相続するのかを決定します。
相続人全員で合意できれば、法定相続分と相続順位に縛られる必要はありません。法定相続分と相続順位は、あくまで相続割合の目安を定めたものだからです。
たとえば、遺産に不動産が多数ある一方、預貯金は少額しかないような場合、長男がすべての不動産を受け継ぎ、代わりにほかの相続人で預貯金を分け合うかたちにするなど、柔軟に遺産の分配を決めていくことができます。
なお、遺産分割協議がまとまったら、あとから「話が違う」といってもめるのを防ぐために、必ず遺産分割協議書を作成するようにしましょう。
不動産を分配する4つの方法
分配する遺産が預貯金などのお金であれば、相続する人や割合などが決まれば特に問題はありません。しかし、建物や土地などの不動産は、お金のように簡単に分割することが難しいケースもあります。
そこで、不動産を分配する4つの方法についてご説明します。それぞれの特徴をよく理解して、ご自身の状況に最適な方法を採用するようにしましょう。
現物分割
不動産をそのままの形で物理的に分ける方法です。
たとえば、土地であれば、土地を分筆し、分筆してできた土地を相続人それぞれが取得するような方法です。分筆とは、土地をいくつかの部分に分けてそれぞれ登記し、「別の不動産」にすることをいいます。
現物分割は、手続自体が簡略化されるメリットがありますが、分け方が不公平になるデメリットもあります。また、建物のように、物理的に分けることが困難な遺産については、ほかの方法での分配が必要です。
代償分割
遺産を特定の相続人が取得する代わりに、その相続人からほかの相続人に対して金銭(代償金)を支払う方法です。
たとえば、建物を1人の相続人が単独で取得した場合、そのままだとほかの相続人の取り分が少なくなってしまう可能性があります。このとき、建物を取得した相続人からほかの相続人に対して代償金を支払うことで、取り分を調整することができます。
代償金の金額を決める際は、不動産の「評価」を行い、不動産の価値をお金に換算します。
ところが、不動産の評価方法は1種類ではないので、どの方法を採用して代償金を決めるかでもめてしまう可能性があります。
換価分割
遺産を売却してお金に換えたうえで、そのお金を分配する方法です。
分配割合さえ決まっていれば、お金として公平に分けることができるメリットがあります。
ただし、特に不動産の場合は、売却まで時間がかかるといった問題が考えられます。かといって、無理に売却を急ぐと、安い価格でしか売れない可能性があり、さらにそこから諸経費も引かれて、手元に残るお金が少なくなるデメリットがあります。
共有
遺産を相続人たちの共有の名義にする方法です。
相続人間の話合いを行っても分配方法を決め切れなかったり、そもそも話合いができなかったりといった場合に採用される方法です。
特に不動産の場合にこの方法が検討されますが、結論からいって、共有のままにしておくことは避けた方が無難です。
たとえば、対象の不動産を売却したくなった場合、共有名義になっていることで自分の意思だけでは売却できません。ほかにも、賃貸に出したり、リフォームを行ったりといったこともスムーズにいかない可能性が高く、不動産の活用に支障が出るからです。
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遺産の相続や分配に不安がある方は専門家に依頼する
遺産の分配をはじめとする相続手続を自分で行う場合、以下のような点に注意しながら進めていく必要があります。
- 戸籍謄本などの資料の収集に漏れはないか
- 作成した遺産分割協議書などの書面に間違いはないか
- 一部の手続について期限は守られているか
しかし、多くの方にとって相続という出来事は一生に何度も経験することではありません。そのなかで、不慣れな手続を漏れなく対応するのはなかなか難しいことだと思います。
また、申請書類などを各機関の窓口に提出したあとに、申請の内容について問合せが来ることがあり得ます。ですが、そうした問合せでは専門用語が会話に出てくることも多く、やり取りが負担になる可能性もあります。
その点、相続の業務を多数取り扱っている弁護士などの専門家に依頼すれば、漏れなく確実に手続を進めてもらうことができます。
各機関とのやり取りについても、専門家であれば滞りなく行えるので、結果としてスムーズに手続を完結させられるでしょう。
手続を進めるのに少しでも不安がある方にとっては、専門家に依頼する方法は非常に有効な手段といえます。
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- この記事の監修者
-
- 弁護士
- 橋 優介
- 資格:
- 弁護士、2級FP技能士
- 所属:
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- 東京大学法学部
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