夫の死後、遺族年金はいくらもらえる?金額や期間をわかりやすく解説
「夫が突然病気で亡くなった!まだ子どもも小さいし、将来が不安…遺族年金がもらえるって聞いたけど、本当にもらえるの?いくらくらいの金額がもらえるものなの?」
まだ幼い子どもを残して夫に先立たれた場合、悲しみに暮れる暇もなく、将来への不安が押し寄せてくることでしょう。
夫の遺族年金を受け取ることができ、生活の見通しが立てば、将来への不安を少しでも減らすことができます。
この記事が、夫を亡くしたあとも安心して子どもを育て、将来の見通しを立てていくための一助となれば幸いです。
- この記事でわかること
-
- 遺族年金の受給要件・対象者・金額
- 遺族年金はいつまでもらえるか
- 遺族年金についてよくある疑問
- 目次
遺族年金には「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」がある
亡くなった夫が自営業者であれば「遺族基礎年金」が、会社員であれば「遺族基礎年金」に加えて「遺族厚生年金」が支給されることとなります。
故人が加入していた年金 | 受給できる遺族年金 |
---|---|
国民年金 | 遺族基礎年金 |
厚生年金 | 遺族基礎年金+遺族厚生年金 |
家族構成などの条件が同じであれば、故人が厚生年金に加入していた場合の方が、遺族厚生年金の分だけもらえる金額は多くなります。
遺族年金は誰がもらえるのか
故人が加入していた年金によって、誰が遺族年金を受給できるのかは異なってきます。
遺族基礎年金、遺族厚生年金はそれぞれ誰がもらえるのかについて、説明します。
遺族基礎年金をもらえる人
遺族基礎年金を受給できるのは、故人が次のいずれかに該当する場合です。
- 国民年金の被保険者期間中に死亡した
- 国民年金の被保険者であった60歳~65歳未満で、日本国内に住所を有していた
- 老齢基礎年金の受給権者だった(保険料納付済期間、保険料免除期間および合算対象期間を合算した期間が25年以上ある場合に限る)
- 老齢基礎年金の受給資格があった(保険料納付済期間、保険料免除期間および合算対象期間を合算した期間が25年以上ある場合に限る)
※(1)(2)の場合、死亡日の前日において、保険料納付済期間(保険料免除期間を含む)が国民年金加入期間の3分の2以上あることが必要です。
ただし、65歳未満の人が2026年3月31日までに死亡したときは、死亡日の前日において、死亡した月の前々月までの直近1年間に保険料の未納がなければよいとされています。
※(3)(4)の場合、保険料納付済期間、保険料免除期間および合算対象期間が合わせて25年以上あることが必要です。
そして、故人に生計を維持されていた遺族のうち、次の人が遺族基礎年金を受給できます。
- 子のある配偶者
- 子
※ここでいう「子」とは、18歳になった年度の3月31日までの人、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある人を指します。
なお、「子のある配偶者」が遺族基礎年金を受け取っている間は、子に遺族基礎年金は支給されません。
遺族基礎年金は、夫(もしくは妻)を亡くしても、一定の条件を満たす子どもがいなければ受給できません。
参照:遺族基礎年金(受給要件・対象者・年金額)|日本年金機構
遺族厚生年金をもらえる人
故人が会社員などで、厚生年金保険に加入していた場合、妻は遺族厚生年金を受給できると考えられます。
遺族厚生年金を受給できるのは、故人が次のいずれかに該当する場合です。
- 厚生年金保険の被保険者期間中に死亡した
- 厚生年金の被保険者期間に初診日がある病気やけがが原因で、初診日から5年以内に死亡した
- 1級・2級の障害厚生(共済)年金を受け取っていた
- 老齢厚生年金の受給権者だった
- 老齢厚生年金の受給資格を満たしていた
※(1)(2)の場合、死亡日の前日において、保険料納付済期間(保険料免除期間を含む)が国民年金加入期間の3分の2以上あることが必要です。
ただし、65歳未満の人が2026年3月31日までに死亡したときは、死亡日の前日において、死亡した月の前々月までの直近1年間に保険料の未納がなければよいとされています。
※(4)(5)の場合、保険料納付済期間、保険料免除期間および合算対象期間が合わせて25年以上あることが必要です。
そして、遺族厚生年金は最も優先順位の高い遺族が受給できます。
優先順位は、次のとおりです。
優先順位 | 遺族(故人との関係) |
---|---|
1 | ・子のある妻 ・子のある55歳以上の夫 ・子(※) |
2 | ・子のない妻 ・子のない55歳以上の夫 |
3 | ・55歳以上の父母 |
4 | ・孫 |
5 | ・55歳以上の祖父母 |
※子のある妻、または子のある55歳以上の夫が遺族厚生年金を受け取っている間は、子に遺族厚生年金は支給されません。
なお、「子」とは、18歳になった年度の3月31日までの人、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある人を指します。
遺族厚生年金は、遺族基礎年金よりも受給対象が広く、子どもがいなくてももらえることがあります。
参照:遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)|日本年金機構
遺族年金はいくらもらえるのか
では具体的に、遺族年金はいくら受給できるのでしょうか。
遺族基礎年金だけなのか、遺族厚生年金も受給できるのか、あるいは子どもの数や年齢、故人の生前の収入によって金額が変動し得るため、状況により受給額はかなり異なってくるでしょう。
遺族基礎年金の支給額(2022年4月分からの金額)
子のある配偶者が受け取る場合
(年額)77万7,800円+子の加算額(子の数によって異なる)
子が受け取る場合
(年額)77万7,800円+2人目以降の子の加算額
※総額を子の数で割った額が、1人あたりが受け取る金額です。
子の加算額
- 1人目と2人目の子の加算額:各22万3,800円
- 3人目以降の加算額:各7万4,600円
年度ごとに変更になる可能性があるため、金額は定期的に日本年金機構のホームページなどでご確認ください。
遺族厚生年金の支給額
遺族厚生年金の支給額は、故人の老齢厚生年金の報酬比例部分(※)の4分の3とされています。
※報酬比例部分:年金の加入期間や生前の収入に応じて決まる、年金額の計算の基礎となるもの。
なお、遺族厚生年金を受け取る人自身も老齢厚生年金の受給権者であるときは、計算方法が異なる場合があります。
遺族厚生年金の金額は非常に複雑な計算によって算出することになりますが、およそ次のようになります(厚生年金保険の加入期間が30年と仮定して計算しています)。
平均標準報酬月額 | 遺族厚生年金の支給額(目安) |
---|---|
30万円 | 49万2,788円 |
40万円 | 65万7,050円 |
50万円 | 82万1,313円 |
計算式:
{ [平均標準報酬月額×1000分の7.125×2003年3月までの加入月数]+[平均標準報酬額×1000分の5.481×2003年4月以降の加入月数] }×4分の3
※2003年3月までの加入月数は132ヵ月、2003年4月以降の加入月数は228ヵ月として計算しています。
※上記は目安額であり、諸条件によって金額が異なることがあります。
なお、遺族厚生年金の場合、子の加算はありませんが、一定の要件を満たせば妻に加算される、「中高齢寡婦加算」や、「経過的寡婦加算」が存在します。
中高齢寡婦加算
次のいずれかに該当する妻は、40歳から65歳になるまでの間、年額58万3,400円が加算されます。
夫が亡くなったとき、40歳以上65歳未満で、同一生計の子がいない
- 子が成長し、要件を満たさなくなったため、遺族基礎年金を受給できなくなった
ただし、夫が老齢厚生年金の受給権者または受給資格期間を満たしていた場合、夫の厚生年金保険の被保険者期間が20年以上の場合でなければ、原則として中高齢寡婦加算はありません。
経過的寡婦加算
次のいずれかに該当する妻には、経過的寡婦加算があります。
- 1956年4月1日以前生まれの妻に65歳以上で遺族厚生年金の受給権が発生した
(ただし、夫が老齢厚生年金の受給権者または受給資格期間を満たしていた場合、夫の厚生年金保険の被保険者期間が20年以上の場合でなければ、原則として経過的寡婦加算はありません。)
- 中高齢の加算がされていた1956年4月1日以前生まれの妻が65歳に達した
参照:遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)|日本年金機構
【事例別に紹介】具体的にいくらもらえる?
では、夫を亡くした妻がいくら遺族年金をもらえるのか、ケース別にご紹介します。
なお、2022年度に受け取れる金額をシュミレーションしております。
【会社員の夫(52歳)を亡くした妻(45歳)・子2人(第1子:10歳・第2子:5歳)のケース】
遺族基礎年金 | 遺族厚生年金 | 合計(年額) |
---|---|---|
77万7,800円+子の加算額(22万3,800円+22万3,800円)=122万5,400円 | 平均標準報酬月額が40万円、厚生年金保険の加入期間が30年の場合:65万7,050円 | 188万2,450円 |
受け取れる遺族年金の合計は、188万2,450円ということになります。
【自営業の夫(55歳)を亡くした妻(55歳)・子1人(成人済み)のケース】
故人が自営業者などで厚生年金保険に加入しておらず、子も成人済み(20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある場合を除く)であれば遺族基礎年金も受け取れないため、受け取れる遺族年金はありません。
遺族年金をいつまでもらえるかは、遺族基礎年金と遺族厚生年金とで異なる
また、遺族年金を受け取れる期間も、遺族基礎年金と遺族厚生年金とで異なるため、先述の、会社員の夫を亡くした妻(45歳)・子2人(第1子:10歳・第2子:5歳)のケースで考えてみましょう。
夫死亡から、第1子が18歳になるまで
遺族基礎年金(77万7,800円+22万3,800円+22万3,800円=122万5,400円)+遺族厚生年金(65万7,050円)
=188万2,450円
第1子が18歳になって以降、第2子が18歳になるまで
遺族基礎年金(77万7,800円+22万3,800円=100万1,600円)+遺族厚生年金(65万7,050円)
=165万8,650円
第2子が18歳になって以降、妻が65歳になるまで
遺族基礎年金は0円になります。
遺族厚生年金(65万7,050円)+中高齢寡婦加算(58万3,400円)
=124万450円
妻65歳以降
遺族厚生年金:65万7,050円
65歳になると、妻は遺族厚生年金に加えて、自身の老齢基礎年金をもらえるようになります。
また、妻が過去に自身で厚生年金に加入していた場合、その分遺族厚生年金が減額されることになります。
遺族年金の請求手続と受給までの流れ
- 年金請求書に添付する書類の準備
- 年金請求書の記入・提出
(遺族基礎年金のみであれば故人の住所地の市区町村役場の窓口、遺族厚生年金も含めて受給する場合は年金事務所または年金相談センターに提出) - 「年金証書・年金決定通知書」が日本年金機構から届く(提出からおおむね60日後)
- 「年金証書・年金決定通知書」が送付されてからおおむね50日後に振込開始
毎年偶数月の15日(土日祝日の場合はその前日)に、2ヵ月分が指定の口座に振り込まれることになります。
参照:遺族基礎年金を請求するとき|日本年金機構
参照:遺族厚生年金を請求するとき|日本年金機構
遺族年金についてよくあるQ&A
遺族年金を受給する際に、よくある疑問についてお答えします。
児童扶養手当と遺族年金は両方もらえる?
遺族年金をもらいながら、児童扶養手当をもらうことは可能です。
ただし、遺族年金の受給額が児童扶養手当の額よりも低い額である場合に、その差額分を児童扶養手当として受給することになります。
したがって、遺族年金の受給額が、児童扶養手当よりも高いのであれば、児童扶養手当をもらうことはできません。
夫は自営業者で、子どももいないので、遺族年金はもらえない。ほかに何か受け取れるお金は?
夫が自営業者で、受給条件を満たす子どももいないのであれば、遺族年金をもらうことはできません。
そのようなケースの救済策として、「寡婦年金」、「死亡一時金」という2つの制度が設けられています。
なお、「寡婦年金」と「死亡一時金」は、どちらか一方しか受け取れません 。
寡婦年金
寡婦年金とは、亡くなった夫が、国民年金の第1号被保険者として保険料を納めた期間および国民年金の保険料免除期間が10年以上(※)である場合に、その夫と10年以上継続して婚姻関係(事実上の婚姻関係を含む)にあり、夫に生計を維持されていた妻に対して、その妻が60歳から65歳になるまでの間支給される年金です。
年金額は、夫の第1号被保険者期間だけで計算した老齢基礎年金額の4分の3となります。
なお、2021年3月31日以前に死亡した場合は、亡くなった夫が障害基礎年金の受給権者であったとき、または老齢基礎年金を受けたことがあるときは支給されません。
※2017年7月31日以前に死亡した場合は、25年以上の期間が必要です。
参照:寡婦年金|日本年金機構
死亡一時金
国民年金の第1号被保険者として保険料を納めた月数が36月以上ある方が、老齢基礎年金・障害基礎年金を受けないまま亡くなった場合、生計を同じくしていた遺族に支給されます。
(該当する配偶者がいれば、配偶者に支給されます。)
死亡一時金の額は、保険料を納めた月数に応じて、12万円~32万円となっていますが、付加保険料を納めた期間が36ヵ月以上ある場合は、8,500円が加算されます。
ただし、遺族基礎年金の受給対象者がいる場合には、受け取れません。
なお、死亡一時金を受ける権利の時効は、死亡日の翌日から2年となっています。
参照:死亡一時金|日本年金機構
【まとめ】遺族年金の金額や期間は状況によってさまざま!忘れずに請求しましょう
今回の記事のまとめは次のとおりです。
- 遺族年金には、遺族基礎年金と遺族厚生年金の2種類がある
- 遺族基礎年金は、一定の条件を満たす子どもがいなければ受給できない
- 遺族厚生年金は受給対象が広く、子どもがいなくても受給できることがあるが、故人が自営業者であった場合には受給できない
- 遺族年金の受給額が児童扶養手当の額よりも低い額である場合、その差額分を児童扶養手当として受給することができる
- 国民年金の第1号被保険者として保険料を納めていたが、受給条件を満たす子どもがいないため遺族年金を受給できないケースの救済策として、「寡婦年金」、「死亡一時金」という制度がある
一家の大黒柱として働き、生計を維持していた夫が亡くなった場合、残された妻や子どもは経済的に厳しい状況に置かれることがあります。
そういった状況でも、遺族年金を受給できれば、生活は幾分か楽になるはずです。
もっとも、子どもが成長するにつれて遺族年金がもらえなくなったり、金額が減ったりすることがありますが、子どもの成長に伴う遺族年金の変動をあらかじめ想定しておけば、計画的に大学進学費用を貯めておくといった対策を講じることもできるでしょう。
遺族年金を受給できるかお悩みの方は、お近くの年金事務所に相談してみることをおすすめします。
- この記事の監修者
-
- 弁護士
- 橋 優介
- 資格:
- 弁護士、2級FP技能士
- 所属:
- 東京弁護士会
- 出身大学:
- 東京大学法学部
弁護士の職務として特に重要なことは、「依頼者の方を当人の抱える法的問題から解放すること」であると考えています。弁護士にご依頼いただければ、裁判関係の対応や相手方との交渉などは基本的にすべて弁護士に任せられます。私は、弁護士として、皆さまが法的な心配をせず日常生活を送れるように、陰ながらサポートできる存在でありたいと考えています。