相続税の申告が必要なケースとは?申告期限や必要書類を弁護士が解説!
亡くなった方の財産を相続した方のなかには、「相続税を納付しなければならないの?」と不安に思っている方も多いのではないでしょうか。
相続税は相続したすべての人が納めなければならないものではありません。しかし、納付が必要なケースもあるため、申告手続についてきちんと理解しておく必要があります。
そこでこのコラムでは、相続税の申告手続の概要や流れに加え、申告の対象者と申告不要なケース、申告の際に必要な書類などについて解説します。
必要に応じて適切に相続税を申告するためにも、理解を深めていきましょう。
- この記事でわかること
-
- 相続税の申告手続の概要
- 相続税の申告の流れ
- 相続税の申告を税理士・弁護士に任せたほうがよいケース
- 目次
相続税の申告はどんな手続?
相続税の申告とは、相続人らが亡くなった方から相続・遺贈によって取得した財産が「遺産にかかる基礎控除額」を超える場合に、その財産を取得した人が行う税金の申告手続のことです。
亡くなった方の財産を相続・遺贈によって取得するときに税金がかかるため、必要に応じて申告手続をします。
相続税の申告期限は、相続日(被相続人が亡くなった日)の翌日から 10 ヵ月以内です。
亡くなった方の住所地を所轄する税務署に相続税の申告書を提出するとともに、納付税額が算出される場合、この期間内に納税する必要があります。
申告期限を過ぎた場合どうなる?
相続税の申告・納税義務があるにもかかわらず、期限までに相続税の申告・納税を行わなかった場合、延滞税、無申告加算税、重加算税が課される可能性があります。
延滞税は、期限の翌日から納付日までの日数に応じて課される利息のようなものです。納付期限の翌日から2ヵ月を経過する日までは年7.3%、それ以後は14.6%の割合で課されます。
無申告加算税は、期限までに申告していない場合に課されるペナルティです。納付すべき税額の5%~30%の額が課されます。
期限後に申告する場合、利用できなくなる特例や控除があるため注意しましょう。
なお、意図的に申告内容を偽ったり、事実を隠ぺいしたりすると、もっとも重いペナルティである重加算税が課されます。
申告期限に間に合わない場合は?
相続税の申告・納税期限は原則として延長されません。
相続人の間で遺産分割協議が終わっていない場合なども例外ではないため、注意しましょう。
このような場合、民法が規定する相続分などに従って「相続をしたもの」とみなして相続税を計算したうえで、申告・納税が必要です。
その後、遺産分割が行われた場合には、修正申告や更正の請求をして、実際に分割した財産額に基づくものに修正します。
なお、災害などのやむを得ない事情がある場合には、税務署に申請することで延長が認められることがあります。ただしその場合も、やむを得ない事情がなくなってから2ヵ月以内に相続税の申告が必要です。
相続税の申告が必要な対象者と申告不要なケース
相続税の申告の対象になる可能性があるのは、「法定相続人」や「受遺者」です。
ただし、申告が必要なのは亡くなった方から相続・遺贈で取得した財産の総額が基礎控除額を超える場合に限ります 。
相続する財産が「基礎控除額以下」である場合には、相続税の申告をする必要はありません。
ただし、税額控除や特例を適用することにより基礎控除額以下になる場合、相続税の納税義務は生じませんが、申告自体はする必要があります。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
相続する財産が「基礎控除額以下」のケース(申告が不要)
亡くなった方から相続・遺贈・相続時精算課税を選択した贈与によって各相続人が取得した財産の合計が遺産にかかる基礎控除額以下の場合、相続税の申告は不要です。
基礎控除の額は、以下のように計算します。
【基礎控除額の計算方法】
基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
ここでいう法定相続人の数は民法の法定相続人と少しズレがあるため、あとで解説します。
税額控除や特例の適用により「基礎控除額以下」になるケース(申告が必要)
相続税には税額控除や特例があり、それらを適用した結果、基礎控除以下になる場合があります。
この場合、相続税の納付は必要ないものの、適用する税額控除や特例によって相続税の申告が必要となる場合があります。
代表的な例は、以下のとおりです。
- 配偶者控除
- 小規模宅地等の特例
- 特定計画山林の特例 など
これらを適用することにより基礎控除以下になる場合には、申告が必要となります。
相続発生から相続税の申告までの流れ
相続が発生してから相続税を申告し納めるまでは、以下のように進みます。
- 法定相続人を確定させる
- 財産を調査・評価する
- 遺産分割協議をする
- 相続税の申告の要否を確認する
- 申告書の提出をする
それぞれ詳しく見ていきましょう。
①法定相続人を確定させる
基礎控除の額は「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」で計算をするため、法定相続人の数を確定させなければなりません。
ここでいう法定相続人の数は、民法の法定相続人を基礎としますが、少しズレがあるため注意が必要です。
具体的には、相続税の計算では、相続放棄をした人がいてもその人が相続放棄をしなかったとみなして法定相続人の数に含めます。
また、亡くなった方に養子がいるケースでは、以下のとおり法定相続人の数に含まれます。
- 亡くなった方に実子がいる場合:1人まで
- 亡くなった方に実子がいない場合:2人まで
②財産を調査・評価する
相続税の計算をするために、財産の調査・評価も必要です。相続税の対象となる財産には、以下のものがあります。
- 本来の相続財産
- みなし相続財産
- 相続時精算課税を選択した贈与財産
- 3年以内の贈与財産
これらを合計したうえで、亡くなった方の債務、葬式費用を差し引くことで相続税を計算します。
本来の相続財産とは、亡くなった方の財産で、相続または遺贈により相続人または受遺者が取得するものです。たとえば、以下のものが本来の相続財産にあたります。
- 土地・建物
- 預貯金
- 株式
- 借地権
- 電話加入権
- 債権 など
みなし相続財産とは、本来の相続財産には含まれないものの、相続または遺贈により取得したとみなされ相続税の課税対象となる財産です。たとえば、以下のものがみなし相続財産にあたります。
- 生命保険金
- 退職手当金 など
なお、生命保険金も退職手当金も「500万円×法定相続人の数」の部分は非課税です。
財産の評価は、原則としてその財産を相続人らが取得したときの時価で行います。
現金は亡くなられた日に手元にある額が、預貯金は死亡日の残高が相続税のかかる財産となり、単純です。
しかし、土地や建物などは固定資産税評価額などから決められた計算方法で評価を算出する必要があるため、注意しましょう。
③遺産分割協議をする
亡くなった方が遺言を残していなかった場合や、遺言はあるものの遺産分割の方法を指定しなかった場合、相続人らで遺産分割協議を行う必要があります。
遺産分割協議は、相続人の間で「亡くなった方の財産をどのように分けるか」を話し合って、結果を遺産分割協議書として書面にするものです。
遺産分割協議書には、相続人と割合的に遺贈を受けた包括受遺者の全員が同意し、署名・押印をする必要があります。
なお、一部の相続人のみによる遺産分割協議は無効です。
精神上の障害により判断能力のない相続人がいる場合には、家庭裁判所から成年後見人を選任してもらう必要があります。
また、未成年者とその親権者が相続人になる場合には、家庭裁判所から未成年者の特別代理人を選任してもらわなければなりません。
④相続税の申告の要否を確認する
実際の各相続人の取得財産に応じて相続税を計算し、申告の要否を確認する必要があります。
ただし、相続税の計算は、以下の手順で行う必要があり、複雑です。
- 各人の課税価格の計算
- 相続税の総額の計算
- 各人ごとの相続税額の計算
- 各人の納付税額の計算
申告の要否は、国税庁の相続税の申告要否判定コーナー でも確認できます。
ただし、あくまでも相続税の申告のおおよその要否を判定するものであるため、注意しましょう。
⑤申告書の提出をする
相続税の申告が必要な場合は申告書を作成し、亡くなった方の住所地を所管する税務署に提出するとともに、納税する必要があります。
申告書は、税務署に持参・郵送 するほか、e-tax(電子申告)で提出することも可能です。
原則として、申告書は相続人が共同で作成して提出する必要がありますが、例外的に別々に提出できる場合もあります。
申告書は、最寄りの税務署や国税庁のホームページで入手できるため、確認してみてください。
相続税の申告に必要な添付書類
相続税の申告をする際は、申告書の内容が正確であることを証明するため、相続の内容によってさまざまな書類を添付しなければなりません。
必要な書類は、相続人、財産の種類、適用したい制度・控除などによって変わります。
どんな書類が必要か、詳しく見ていきましょう。
共通して必要な書類
まずは、相続税を申告する人全員に共通する書類を確認しましょう。
<全員に共通する書類一覧>
書類名 | 必要性 | 入手場所 |
---|---|---|
被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、改正原戸籍 | 必ず | 市町村役場 |
被相続人の住民票の除票(本籍地を省略していないもの) | 必ず | 市町村役場 (死亡時の住所地) |
被相続人の戸籍の附票 | 相続時精算課税制度適用者がいる場合 | 市町村役場 |
遺言書 | 遺言書のとおりに相続する場合 | ― |
特別代理人選任の審判の証明書 | 特別代理人が選任されている場合 | 家庭裁判所 |
遺産分割協議書の写し | 遺産分割協議を行った場合 | ― |
印鑑登録証明書 | 遺産分割協議を行った場合 | 市町村役場 |
相続放棄申述受理証明書 | 相続放棄した相続人がいる場合 | 家庭裁判所 |
財産の種類ごとに必要な書類
土地や株式、預貯金、保険など、財産の種類によってもそれぞれに必要な書類があります。
以下の表では、財産の種類ごとに必要な書類をまとめていますので、参考にしてみてください。
<土地・建物関係の書類一覧>
書類名 | 必要性 | 入手場所 |
---|---|---|
登記簿謄本(全部事項証明書) | 相続財産に不動産がある場合 | 法務局 |
固定資産税評価証明書 | 相続財産に不動産がある場合 | 都税事務所または役所の資産税課 |
実測図 | 土地の評価を実測面積による場合 | 法務局 |
土地賃貸借契約書 | 土地に借地権が設定されている場合 | ― |
住宅地図 | 土地に借地権が設定されている場合 | 図書館など |
建物賃貸借契約書 | 建物に借家権が設定されている場合 | ― |
<株式・投資信託等関係の書類一覧>
書類名 | 必要性 | 入手場所 |
---|---|---|
証券・株券・通帳またはその預り証 | 相続財産に有価証券がある場合 | 金融機関など |
<預金関係の書類一覧>
書類名 | 必要性 | 入手場所 |
---|---|---|
預貯金等の残高証明書 預貯金通帳 | 相続財産に預貯金等がある場合 | 金融機関 |
<その他の資産に関する書類一覧>
書類名 | 必要性 | 入手場所 |
---|---|---|
資産・負債の残高表 所得税青色申告決算書・収支内訳書 | 被相続人が事業用財産を有していた場合 | ― |
<保険関係の書類一覧>
書類名 | 必要性 | 入手場所 |
---|---|---|
保険証書 支払保険料計算書 | 生命保険がある場合 | 生命保険会社 |
退職金の支払調書 | 退職手当金の支払いがある場合 | 被相続人の勤務先 |
控除や特例の適用を受ける場合に必要な書類
控除や特例の適用を受ける場合にも、それぞれ書類が必要です。
以下の一覧表で、適用を受ける控除や特例ごとに確認してみてください。
<配偶者の税額軽減の適用を受ける場合の書類一覧>
書類名 | 必要性 | 入手場所 |
---|---|---|
遺言書または遺産分割協議書の写し | 必ず | ― |
共同相続人等全員(特別代理人がいる場合には、特別代理人を含む)の印鑑証明書 | 必ず | 市町村役場 |
<相続時精算課税の適用を受けている場合の書類一覧>
書類名 | 必要性 | 入手場所 |
---|---|---|
借入残高証明書・返済予定表 | 金融機関から借入がある場合 | 各金融機関 |
金銭消費貸借契約書・返済予定表 | 金融機関以外から借入がある場合 | 各借入先 |
法要・香典返しの領収書・請求書等 | 法要や香典返しで費用が発生した場合 | 支払先 |
墓石・仏壇購入の領収書・請求書等 | 墓石や仏壇を購入した場合 | 支払先 |
<贈与関係の書類一覧>
書類名 | 必要性 | 入手場所 |
---|---|---|
贈与証書、贈与税の申告書(控)等 | 相続開示前3年以内に贈与を受けた財産の加算の必要がある場合 | ― |
配偶者の戸籍の附票 | 配偶者が相続開始の年に被相続人から贈与を受けた居住不動産がある場合や、金銭を特定贈与財産としている場合 | 市町村役場 |
居住用不動産の登記事項証明書 | 配偶者が相続開始の年に被相続人から贈与を受けた居住不動産がある場合 | 法務局 |
管理残高がわかる書類 | 教育資金または結婚・子育て資金の一括贈与にかかる非課税特例がある場合 | 金融機関 |
- 遺言・遺産相続に関する
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相続税の申告は自分でできる?弁護士などに相談したほうがよいケース
相続人がご自身お一人である場合や、基礎控除額の範囲内であることが明らかである場合などはご自身で相続税の対応ができるかもしれません。
しかし、相続財産の価値の評価や計算を誤ってしまうと、過少申告加算税や重加算税を課されてしまうおそれがあります。
そのため、以下のようなケースでは、税理士や弁護士に相談したほうがよいでしょう。
- 相続人が多数いる
- 遺産分割協議がすぐにはできない
- 基礎控除額を超える可能性がある
- 税額控除や特例を使う可能性がある
- 生前贈与がある
税理士や弁護士に相談すれば、複雑な計算や手続も任せることができるため安心です。
アディーレなら税務申告などの領域も対応可能
アディーレ法律事務所では、相続税の申告だけでなく、遺産・相続全般についてもご相談・ご依頼を承っております。
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あなたの負担を軽減し、漏れなくスムーズに手続するためにも、まずはお気軽にご相談ください。
まとめ
相続した財産が基礎控除額を超える場合には、相続税の申告が必要です。
申告は10ヵ月以内に行う必要があり、期限を過ぎてしまった場合、延滞税や無申告加算税などのペナルティが課されることがあるため注意しましょう。
相続税の計算は複雑で、必要書類も多岐にわたります。そのため、相続人が多数いる場合や、遺産分割協議がすぐにはできない場合、税額控除や特例を使う場合、生前贈与がある場合などは税理士や弁護士に相談することをおすすめします。
アディーレ法律事務所なら、亡くなったあとの税務手続に加え、法的手続もご依頼可能です。相続に関する手続全体について一貫してサポートできるため、あなたの負担を軽減し、スムーズに手続できます。
相続税の申告や遺言・遺産相続に関するご相談は何度でも無料ですので、まずはお気軽にお問合せください。
- この記事の監修者
-
- 弁護士
- 橋 優介
- 資格:
- 弁護士、2級FP技能士
- 所属:
- 東京弁護士会
- 出身大学:
- 東京大学法学部
弁護士の職務として特に重要なことは、「依頼者の方を当人の抱える法的問題から解放すること」であると考えています。弁護士にご依頼いただければ、裁判関係の対応や相手方との交渉などは基本的にすべて弁護士に任せられます。私は、弁護士として、皆さまが法的な心配をせず日常生活を送れるように、陰ながらサポートできる存在でありたいと考えています。