遺言・遺産相続の弁護士コラム

遺産相続手続に期限はある?過ぎた場合のデメリットと対処法

相続手続

遺産相続手続は亡くなった方の残した財産を引き継ぐための手続です。人が亡くなるとお通夜や葬儀の手配などもあり、なかなか落ち着いて遺産相続に関する手続を進められない方も多いと思います。
しかし、遺産相続手続には期限が設けられているものがあり、期限を過ぎた場合にはペナルティなどのデメリット が発生することがあります。

そこで、このコラムでは、遺産相続に関する手続の期限や期限に間に合わなかったときのデメリット などについて解説します。
また、遺産相続手続を期限内に行うためのポイントも合わせてご紹介します。スムーズに手続を進めるために、ぜひ参考にしていただけますと幸いです。

この記事でわかること
  1. 遺産相続に関する各種手続の期限
  2. 手続期限を過ぎた場合のデメリット
  3. 遺産相続手続を期限内に行うための対処法

遺産相続手続には「期限あり」と「期限なし」がある

遺産相続にはさまざまな手続がありますが、期限があるものと期限がないものがあります。
届出先や請求先がそれぞれ異なるため、なかなか進められないという方もいらっしゃるかもしれません。
ですが、期限が過ぎてしまうと延滞税が発生するなどのおそれがあり、きちんと期限を守ることが大切です。

期限のある遺産相続手続

期限のある主な遺産相続手続とそれぞれの期限を、期限の近い順にまとめました。
手続を進める際のチェックリストとして活用いただければ幸いです。

<期限のある遺産相続手続とその期限>

手続期間
死亡届の提出死亡の事実を知った日から7日以内
被相続人の年金受給の停止(厚生年金)死亡日から10日以内
被相続人の年金受給の停止(国民年金)
保険証の返還
死亡日から14日以内
国民健康保険証の返却死亡日から14日以内
介護保険の資格喪失届死亡日から14日以内
世帯主の変更届死亡日から14日以内
相続放棄・限定承認・単純承認の選択相続の開始を知った日から3ヵ月以内
準確定申告相続の開始を知った日の翌日から4ヵ月以内
相続税の申告相続の開始を知った日の翌日から10ヵ月以内
遺留分侵害額の請求相続開始や遺贈等を知った日から1年以内
葬祭費・埋葬料の請求葬祭または埋葬を行った日の翌日または死亡日の翌日から2年以内
死亡保険金の請求死亡日から3年以内
不動産の相続登記相続の開始を知り、かつ不動産の取得を知った日から3年以内
相続税の還付請求相続の開始を知った日の翌日から5年10ヵ月以内

【7日】死亡届の提出

死亡の事実を知った日から7日以内に、被相続人の本籍地や最後の住所地などの市町村役場に「死亡届」を提出します。この際、死亡診断書または死体検案書の添付が必要です。
葬儀社などに葬儀を依頼した場合は通常、葬儀社が代行してくれることが多いです。

【10日】被相続人の年金受給の停止(厚生年金、国民年金)

被相続人が厚生年金を受給していた場合には、死亡日から10日以内に、年金事務所または年金相談センターに「年金受給権者死亡届(報告書)」を提出します。

また、被相続人が国民年金のみを受給していた場合は、死亡日から14日以内に、被相続人の最後の住所地の市町村役場に「年金受給権者死亡届(報告書)」を提出します。

いずれの際も、死亡診断書または死体検案書などの添付が必要です。

【14日】保険証の返還

被相続人が国民健康保険に加入していた場合、死亡日から14日以内に、最後の住所地の市町村役場に「資格喪失届」を提出します。

【被相続人が75歳以上の場合】
後期高齢者医療保険資格喪失届も合わせて提出します。

被相続人が65歳以上/40歳以上65歳未満で要介護・要支援認定を受けていた場合
介護保険資格喪失届も合わせて提出します。

【3ヵ月】相続放棄・限定承認・単純承認の選択

相続人は必ず遺産を相続しなければならないわけではありません。相続放棄、限定承認、または単純承認のいずれかの相続方法を選択することができます。期限は相続の開始を知った日から3ヵ月以内で、この3ヵ月を「熟慮期間(じゅくりょきかん)」といいます。

相続放棄

プラスの財産(資産)・マイナスの財産(借金)にかかわらず、一切の財産の相続を拒絶して相続人の地位を捨てることです。
相続放棄により、初めから相続人とならなかったこととなるため(民法第939条)、ほかの相続人に遺産相続の権利が移ります。

【手続】
必要
被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に対して「申述」という手続を行う(民法第938条)

【選択する人】
各相続人

限定承認

プラスの財産(資産)からマイナスの財産(借金など)を支払ってプラスが残る場合に限り、遺産を相続する方法です。(民法第922条)

【手続】
必要
被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に対して「申述」という手続を行う(民法第938条)

【選択する人】
相続人全員

単純承認

プラスの財産(資産)・マイナスの財産(借金)にかかわらず、すべての遺産を相続する方法です。

【手続】
不要

【選択する人】
各相続人

相続放棄または限定承認を選択する場合には、「申述」という手続を行う必要があります。
単純承認を選択した場合、届出等は必要ありません。

【4ヵ月】準確定申告

準確定申告とは、被相続人が死亡した年の1月1日から死亡した日までの間に発生した被相続人の所得税の申告です。
相続の開始を知った日の翌日から4ヵ月以内に、相続人全員が共同で申告する必要があります。

【10ヵ月】相続税の申告

相続財産に相続税が課税される場合、相続の開始を知った日の翌日から10ヵ月以内に、相続税を申告・納付します。
相続税は、「3,000万円+600万円×法定相続人数」の額を超える相続財産がある場合に課税されます。
相続税の申告は、被相続人の最後の住所地にある税務署に必要書類を提出して行います。必要書類は被相続人が死亡時に保管していた財産により異なります。

【1年】遺留分侵害額の請求

遺留分侵害額の請求は、相続開始や遺贈等を知った日から1年以内に行います。
遺留分とは、兄弟姉妹を除く法定相続人(配偶者・子・直系尊属。以下、遺留分権利者という)が、被相続人の財産から法律上取得することが保障されている最低限の取り分です。
遺留分に相当する財産を受け取れなかった場合、遺留分権利者はほかの相続人に対し、侵害額に相当する金銭の支払いを請求することできます。

【2年】葬祭費、埋葬料の請求

葬祭費、埋葬料の請求は、葬祭または埋葬を行った日の翌日または死亡日の翌日から2年以内に行います。
葬祭費や埋葬料は、被相続人が加入していた健康保険から葬儀を行った方に支払われ、被相続人の最後の住所地の市町村役場において手続を行います。

【3年】死亡保険金の請求

被相続人が死亡保険に加入していた場合、契約上の受取人は保険会社に死亡保険金を請求できます。期限は、死亡日から3年以内(保険法の規定による)です。
受取人が指定されていない場合は、各法定相続人の法定相続分の割合に応じ受け取ることができます。

【3年】不動産の相続登記

相続登記とは、特定の相続人が、相続によって被相続人の不動産を受け継いだことを不動産登記簿に記録することです。
相続の開始を知り、かつ不動産の取得を知った日から3年以内に行います。
具体的には、不動産登記申請書の作成や各種添付書類の収集などを行い、法務局で手続を行います。

  • 相続登記に関する法改正により、令和6年4月1日以降は相続登記が義務化されました。正当な理由なく登記をしていない場合には罰則が科されることになりますので注意が必要です。

【5年10ヵ月】相続税の還付請求

不動産の評価額を修正し、相続税を払いすぎていた場合には税務署に還付請求することができます。期限は相続の開始を知った日の翌日から5年10ヵ月以内です。

期限のない遺産相続手続も速やかに行うのがおすすめ

期限のない遺産相続手続であっても、その手続が終わらなければほかの期限のある手続ができなかったり、必要な書類の収集に時間がかかったりすることもあります。なるべく速やかに行うことをおすすめします。

法定相続人の確定

遺産分割協議を行うには、まず、「誰が相続人なのか」を確定させることが必要です。法定相続人が確定していなければ話合いを始めることができませんし、遺産分割協議は法定相続人全員で行う必要があるからです。
相続人を確定させるにあたっては相続人調査を行います。戸籍謄本をたどっていく必要がありますが、相続人が多数にわたる場合には取得すべき戸籍謄本が膨大な量になることがあります。

遺言書の有無の確認、検認

「被相続人が遺言書を作成していたかどうか」、そして「その内容がどのようなものか」によって、各相続人の財産の取り分は大きく変わってきます。そのため、早急に確認する必要があります。
そのようなとき、法務局に確認するという方法があります。遺言書(自筆証書遺言書)は、ご自宅などだけではなく法務局に保管されていることがあるためです。
この場合、法務局から遺言書情報証明書などを取得して、遺言書の有無やその内容を調査することができます。
ただし、証明書の取得のためには必要書類(相続人全員の戸籍謄本など)の提出が必要です。
なお、遺言検認の手続をせずに遺産を分けた場合、5万円以下の過料に処せられます。このことを防ぐためにも、遺言書の有無の確認と遺言書がある場合の検認は必要な手続です。

遺産分割協議

遺産分割協議とは、被相続人の遺した相続財産について、相続人間で分割方法を話し合うことです。相続人間で話がスムーズにまとまることが望ましいですが、被相続人に高額の財産があったりすると、なかなかそうもいかないのが実情です。
遺産分割協議を行わないと遺産相続手続が始められませんし、相続税の各種控除が適用できない可能性もあります。

預貯金などの名義変更

被相続人の財産を受け継ぐことになった相続人は、自分が財産を取得したことを示すために、名義変更などの手続を行う必要があります。また、被相続人の預貯金を相続人たちで分配することになった場合には、払戻しを受けるために銀行窓口での所定の手続が必要です。このような相続に伴う諸手続は、煩雑で手間暇がかかることが多いです。

なお、預貯金は5年以上放置すると時効にかかってしまう可能性があります。さらに、10年以上利用がない口座は、休眠預金扱いとなり、預金を引き出すには、手数料や追加書類の提出などが必要になることがあります。

(車やバイクを相続する場合)名義変更

相続した車やバイクを継続して使用する場合や売却する場合は、名義変更が必要です。時間が経過すると取得するのが難しい書類もあるので、お早めの手続をおすすめします。

手続期限を過ぎた場合のデメリットについて

期限のある手続は、その期限内に対応しなければさまざまなデメリットが生じます。これまでにご紹介した期限のある手続のなかから、特に大きなデメリットが生じるものについて以下で説明します。

罰金が科せられる

下記の3つの手続について期限内に申請しなかった場合、罰金が科せられます。

  • 死亡届
  • 不動産の相続登記
  • 相続税の申告

死亡届

死亡届については、しかるべき理由がない状態で提出期限が過ぎた場合、5万円以下の過料が科されます(戸籍法第137条)。
また、火葬許可証や埋葬許可証の取得、年金受給停止の手続は死亡届の提出後に可能です。そのため、死亡届の提出期限を過ぎると、故人の弔いができないだけでなく、行政支援の停止手続ができないなどの不都合が生じます。

不動産の相続登記

不動産の相続登記については、正当な理由がないにもかかわらず申請を怠ると10万円以下の過料が科せられます。
不動産登記法が改正され、施行日(令和6年4月1日)以降、不動産を取得した相続人が、相続の開始を知り、かつ不動産の取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をすることが義務付けられました。
施行日前に相続が発生していたケースについても、施行日とそれぞれの要件を充足した日のいずれか遅い日から3年の間に申請する必要があります。

相続税の申告

相続税の申告については、申告期限を1日でも過ぎると罰金を支払わなければなりません。
罰金には、延滞税(期限後に相続税を納付した場合)、過少申告加算税(申告書の税額が実際より過少の場合)、無申告加算税(正当な理由がなく期限内に申告しなかった場合)、重加算税(財産の仮装または隠ぺいを行った場合)などがあります。

借金などの負債も相続してしまう

相続の開始を知った日から3ヵ月以内に相続放棄や限定承認の手続をしなかった場合、単純承認をしたとみなされます。
被相続人の借金がある場合、その負の遺産も相続することになるので必ず期限内に手続をおこないましょう。
期限後に相続放棄や限定承認が認められるケースは非常に限られてきますので、注意が必要です。

特例が利用できなくなる

小規模宅地等の特例や農地の納税猶予などの特例は、相続税を期限内に申告しなければ利用することができなくなります。

時効により請求権が消滅する

遺留分侵害額請求権は、遺留分権利者が相続開始や遺贈等を知った日から1年以内に行使しなければ時効により消滅します(加えて、相続開始時点から10年を経過することによっても消滅します)。
そのため、期限内に内容証明郵便で意思表示したり、調停申立てなどの裁判手続をしたりしなければなりません。 

遺産相続手続を期限内に行うための対処法

遺産相続の手続には期限が定められているものが多くあり、なかには期限を守らなかった場合のデメリットが大きい手続もあります。
以下は、期限内に遺産相続手続をするための対処法を紹介していますので、参考にしてください。

手続の期限をしっかり把握し、他の相続人と情報を共有する

まず、自分に必要な手続は何かをしっかり把握しましょう。そのうえで、それぞれの手続の期限を、早く期限が来るものから順に整理して一覧表を作成することをおすすめします。
遺産分割協議を行う場合などには、複数の相続人が関わってきますので、ほかの相続人と情報を共有するようにしましょう。

役場などに問い合わせるなどして早目に準備を始める

多くの手続では、必要書類を取得してそれらを提出しなければなりません。取得に時間がかかる書類もありますので、できる限り早目に準備を始めることが肝要です。
役場などに手続の方法や必要書類等を問い合わせてみることもよいでしょう。

遺産相続手続に詳しい弁護士に相談・依頼する

故人が亡くなり、相互の手配などで慌しいなかでさまざまな手続をしなければならず、とても大変なことと思います。
特に、遺産相続に関する諸手続は面倒な手続も多く、期限内に手続を終了することが難しい場合もあります。そのようなときは遺産相続手続に詳しい弁護士に相談されるのをおすすめします。
また、弁護士に依頼すれば、必要な書類収集なども含めてあなたの代わりに手続を行いますので、スムーズに手続を進めることが期待できます。

まとめ

遺産相続に関する諸手続は面倒な手続も多く、期限内に手続を終了することが難しい場合もあります。そのようなときには、ぜひ遺産相続に詳しい弁護士に相談されることをおすすめします。
また、弁護士に依頼すれば、「面倒な手続を代行してもらえる」、「手続の進め方について法的な観点から適切なアドバイスをしてもらえる」というメリットがあります。

アディーレ法律事務所では、遺産相続や相続放棄について積極的にご相談・ご依頼を承っております。

また、アディーレにご依頼いただいたにもかかわらず、結果として一定の成果を得られなかった場合、原則としてお客さまの経済的利益を超える費用はご負担いただいておりません(損をさせない保証)。
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橋 優介
この記事の監修者
弁護士
橋 優介
資格
弁護士、2級FP技能士
所属
東京弁護士会
出身大学
東京大学法学部

弁護士の職務として特に重要なことは、「依頼者の方を当人の抱える法的問題から解放すること」であると考えています。弁護士にご依頼いただければ、裁判関係の対応や相手方との交渉などは基本的にすべて弁護士に任せられます。私は、弁護士として、皆さまが法的な心配をせず日常生活を送れるように、陰ながらサポートできる存在でありたいと考えています。

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