遺言・遺産相続の弁護士コラム

相続放棄とは?手続の流れと6つの注意事項を弁護士が解説

相続放棄・限定承認

たとえば亡くなった家族に借金があったとき、その借金を代わりに返済しなくて済む方法の一つに「相続放棄」という手段があります。
しかし、「手続のやり方がわからない…」、「自分だけで手続ってできるの?」といったお悩みや疑問がある方もいらっしゃるでしょう。

今回の記事では、相続放棄の手続や流れ、注意点などを詳しく解説しています。
相続放棄への理解を深めて、ご自身にとって最適な選択ができるようにしましょう。

この記事でわかること
  1. 相続放棄とは何か
  2. 相続放棄の手続と流れ
  3. 相続放棄する際に注意すべきこと

相続放棄とは?

相続放棄とは、プラスの財産(資産)・マイナスの財産(借金)にかかわらず、一切の財産について相続を拒絶し、相続人の地位を捨てることをいいます。
相続放棄をすると、初めから相続人とならなかったこととなるため(民法第939条)、ほかの相続人に遺産相続の権利が移ります。

相続放棄を行うには、相続開始を知ってから原則3ヵ月以内に「申述」という手続をしなければなりません(民法第938条)。
なお、この3ヵ月という期間は「熟慮期間」と呼ばれますが、なかには、熟慮期間の伸長が認められるケースもあります(民法第915条1項ただし書き)。この場合、3ヵ月を経過しても相続放棄が認められることがあります。

仮に裁判所への申述を行わずに、相続人間で「相続放棄する」と合意しても、第三者には「相続放棄」の効果はおよびません。
たとえば、相続しないという合意を交わしていない債権者には、相続放棄の効果はないのです。

相続放棄の手続の流れ

相続放棄の手続は、主に以下のような流れで進みます。

  • 財産調査
  • 必要書類の収集
  • 相続放棄申述書の作成と相続放棄の申述
  • 相続放棄受理通知書の受理

それぞれ順番に解説していきます。

財産調査

相続人は、亡くなった人が保有していた財産のすべてを相続することになります。そのため、預金や不動産などのプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も含めて、保有している財産を把握しなければなりません。
そこで、財産調査が必要になります。
相続放棄には原則として3ヵ月の期間制限があるため、財産調査は速やかに行うようにしましょう。

財産調査の結果、プラスの財産よりもマイナスの財産のほうが多かった場合には、相続放棄の検討をおすすめします。

必要書類の収集

申述に必要な戸籍謄本などの書類を収集します。
必要な書類は、被相続人と申述人との関係性により異なります。たとえば、申述人が被相続人の夫や妻の場合、以下の書類が必要です。

  • 被相続人の住民票除票または戸籍附票
  • 申述人の戸籍謄本
  • 「被相続人が死亡した」旨の記載のある戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍謄本)

相続放棄申述書の作成と相続放棄の申述

まずは、「相続放棄申述書」を作成します。これは、相続放棄の理由などを記載する書類です。
相続放棄申述書が準備できたら、先ほどご説明した必要書類とあわせて、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に提出します。
提出の際には、相続放棄を申述する人1人につき800円分の収入印紙、それから連絡用の郵便切手も家庭裁判所に納めます。切手代は、家庭裁判所により必要な額面等が異なります。

書類一式を家庭裁判所に提出すると、家庭裁判所から「照会書」という質問状のようなものが届くことがあります。
これは、申述人の真意で相続放棄をすることを裁判所が確認するためのものです。照会書が届いたら、速やかに回答・返信するようにしてください。

相続放棄受理通知書の受理

申述書と必要書類を提出したら、家庭裁判所がチェックをして、相続放棄を受理するか否かを判断します。
裁判所が相続放棄を受理し、「相続放棄申述受理通知書」が送付されてくれば、相続放棄の手続は終了です。

申述人以外も取得できる「相続放棄申述受理証明書」

相続放棄申述受理通知書は、申述人本人のみが受領できる書類です。
一方、申述人本人だけでなく、ほかの相続人や利害関係人でも、申請すれば取得できるのが「相続放棄申述受理証明書」です。相続放棄申述受理証明書は、相続放棄が受理されたことを裁判所が証明する書類になります。

以前は、相続放棄申述受理証明書でのみ不動産の相続登記が認められていたため、なかには取得しなければならないケースがありました。 現在では相続放棄申述受理通知書でも登記が認められるようになっています。

相続放棄に関する6つの注意点

相続放棄には、「借金などのマイナスの財産を相続せずに済む」などのメリットがある一方、以下のような注意点もあります。

  • プラスの資産を相続できなくなる
  • 相続財産を勝手に処分できない
  • 裁判所が受理しないと相続放棄できない
  • 原則3ヵ月の期限がある
  • 後順位の相続人に相続権が移る
  • 債権者へ連絡しなければならない

それぞれ順番に解説していきます。

プラスの資産を相続できなくなる

相続放棄をすると、借金などのマイナスの財産だけでなく、預貯金や不動産などのプラスの財産も引き継げなくなります。
そのため、相続放棄をする前に、被相続人の財産をすべて調査し、本当に相続放棄をしていいのかよく検討しておかなければなりません。

特に、被相続人が1980年代以前に生まれている場合、仮に借金があったとしても「過払い金」というプラスの資産を持っている可能性があります。
被相続人が高齢の方であった場合、過払い金の金額も高額になりやすく、人によって条件などは異なりますが、なかには数百万円に上ることもあります。

過払い金の調査は自分では難しいことも多いため、相続放棄の手続をする前に、事前に弁護士へ相談しておくとよいでしょう。

原則3ヵ月の期限がある

相続放棄の手続は、原則3ヵ月以内に行わなければなりません。
たとえば、死亡から3ヵ月が経過している場合、相続放棄の難易度が上がります。たとえ「死亡したのを知ったのは3ヵ月以内でした」と必死に主張しても、納得できる理由や資料が示されていないと、裁判所は相続放棄の申述を受理してくれない可能性があります。
裁判所が受理しなければ、手続はいつまで経っても完了しません。

そこで、3ヵ月が経過しても相続放棄ができる理由を記載した書面や、それを裏付ける資料を提出するなどして、裁判所を納得させる必要があります。
しかし、法律知識のない方では、うまく説明ができずに、相続放棄に失敗する可能性があるのです。

相続財産を勝手に処分してはいけない

たとえば、不動産などの相続財産を勝手に売却などすると、原則として相続放棄ができなくなります。
相続人が相続放棄を行うかどうか決める前に、相続財産の全部または一部を処分すると、「相続人であることを認めた」とみなされてしまうからです。これを法定単純承認といいます(民法第921条第1号)。

もっとも、被相続人の財産でも、種類や金額等によっては処分しても問題ない場合があります 。処分する前に一度弁護士へ相談されることをおすすめします。

必要書類の収集に時間がかかる場合がある

相続放棄をするためには、さまざまな書類を提出する必要があり、もし不足していると相続放棄が認められません。
たとえば必要書類のなかには、戸籍謄本があります。しかし、「誰の」、「どんな」戸籍謄本が必要かは個別のケースにより異なり、被相続人との親戚関係が遠いほど、複雑かつ多くの書類が求められます。
必要な戸籍謄本の本籍地がそれぞれ違った場合には、あちらこちらの役所とやり取りをして、それぞれ取り寄せる必要があります。
このように、戸籍謄本を取るにも、相当な労力と時間がかかることが少なくありません。

そのうえ、いざ裁判所に書類を提出すると「書類が不足している」と連絡が来ることも多いです。そして、そうこうしているうちに相続放棄の期限を過ぎてしまった、ということも起こり得ます。
期限内に自分で手続を完了できる自信がない方は、弁護士への相談もご検討ください。

後順位の相続人に相続権が移る

相続放棄をすると、次の順位の相続人に相続権が移ります。
だからといって、裁判所から後順位の相続人へ連絡してくれるわけではありません。

そのため、次の順位の相続人には、相続放棄したことを自分で伝えておく必要があります。もし連絡を怠ってしまい、かつ、被相続人に借金があった場合、ある日突然、債権者からの請求が次の順位の相続人のところに届く、などといったトラブルへと発展しかねません。

債権者へ連絡しなければならない

被相続人にマイナスの財産(借金)があった場合、相続放棄をしただけでは、債権者からの督促も、訴えられている裁判も止まりません。
手続が完了しても、裁判所から債権者や訴えられている裁判所に連絡がいくわけではないからです。

そのため、ご自身で債権者などに相続放棄したことを連絡する必要があります。相続放棄申述受理通知書の写しなどを、債権者や債権者が訴えている裁判所に送りましょう。
そうして相続放棄したことを伝えれば大半の請求は止まりますが、なかには督促を続ける債権者もいます。そういった場合に備えるのであれば、あらかじめ弁護士などに相談しておくとよいでしょう。

相続放棄をしたほうがいいのはどんな場合?

「プラスの財産よりもマイナスの財産のほうが多い」という場合には、特別な理由がない限り、相続放棄を選択することをおすすめします。
そのほか下記のような事情がある場合も、相続放棄を選択する方が多いといえます。

  • 借金があるかどうかわからず不安
  • 被相続人と疎遠なので相続に関わりたくない
  • 特定の相続人に遺産を相続させたい
  • ほかの相続人とすでに縁を切っている

とはいえ、相続放棄をするかどうかは、基本的には相続人が自由に決められます。相続放棄をする理由にも制限はありません。
そのため、なかには道徳心や倫理的な責任感から、あえて相続して借金を返済する人もいます。また、被相続人に借金があったことを、次順位の相続人に知られたくないという理由から、相続放棄をしない人もいます。

相続放棄以外の選択肢はある?

マイナスの財産の相続を回避する方法としては、相続放棄のほかに「限定承認」という方法が考えられます。
限定承認とは、相続で得る資産の範囲内で負債の返済義務を負う相続方法です(民法第922条)。

なお、限定承認を行うには、次のような条件があります。

  • 自己のために相続の開始があったことを知ったときから原則3ヵ月以内に手続すること
  • 相続人全員が共同して、裁判所に限定承認の申述をすること

相続人全員で足並みを揃えて手続をしなければならないことや、税制上の不都合などがあるため、実際に利用されるケースは少ないです。

相続放棄と限定承認の違い

相続放棄の場合、手続をすると初めから相続人ではなかったとみなされ、プラスの財産もマイナスの財産も一切相続できなくなります。
一方、限定承認とは、簡単にいうと「プラスの財産の範囲でのみ、マイナスの財産を相続する手続」のことです。そのため、遺産の一部だけを相続しないことができます(民法第922条)。

相続放棄の手続は自分でもできる?

相続放棄の手続は、場合によっては自分で行っても問題ありません。
たとえば、以下のようなケースです。

  • 手続の期限まで余裕があり、時間も十分取れる
  • 次の順位の相続人と交流があり、関係も良好
  • 相続する財産は、マイナスの財産のほうが明らかに多い

反対に、相続財産の内訳が明らかでなかったり、手続の期限が迫ったりしている場合は、自分で行うのは難しいでしょう。ここまでご説明してきたように、法律知識のない方が、限られた時間内で複雑な手続をするのは簡単ではないからです。

難しい場合は弁護士への依頼を検討

自分で手続を行うのが難しい状況の場合は、弁護士などの専門家への依頼を検討しましょう。
仮に、無理して自分だけでやろうとすると、最悪の場合、相続放棄が認められずに失敗する可能性があります。

その点、相続放棄に詳しい弁護士ならば、法律知識はもちろん、経験やノウハウもあります。それらを駆使して、可能な限り説得力のある理由や資料を裁判所に示し、失敗するリスクを下げることができるのです。

また、「難しい手続を自分でやるのは面倒」、「自分でやって失敗したくない」といった方も、弁護士に任せれば安心できるでしょう。必要書類の収集や裁判所への申述などを、あなたの代わりに行ってくれるので、負担が大きく軽減されます。

相続放棄はアディーレにご相談ください

アディーレでも相続放棄のご依頼をお受けしています。
ご依頼いただければ、以下のような内容を依頼者の方に代わって対応いたします。

  • 相続人の調査(※)
  • 戸籍謄本の収集
  • 裁判所に対して行う相続放棄の申述
  • 裁判所からの照会書に対する対応
  • 相続放棄申述受理通知書の受領
  • 支払いの督促をされている債権者へ相続放棄したことの連絡
  • 後順位相続人へのご連絡およびご説明
  • 調査の難易度により別途料金が発生する場合もあります。

また、アディーレでは、費用面の心配をせずにご依頼いただけるように「損はさせない保証」をご用意しています。
この「損はさせない保証」によって、万が一、相続放棄のお手続が完了できなかった(相続放棄の申述が受理されなかった)場合には、弁護士費用は原則として全額返金いたします。(※)

  • 委任契約の中途に自己都合にてご依頼を取りやめる場合、成果がない場合にも解除までの費用として、事案の進行状況に応じた弁護士費用等をお支払いただきます。

相続放棄に関するご相談は何度でも無料ですので、「相続放棄を弁護士に依頼しようか迷っている…」という方は、一度お気軽にご連絡ください。

橋 優介
この記事の監修者
弁護士
橋 優介
資格
弁護士、2級FP技能士
所属
東京弁護士会
出身大学
東京大学法学部

弁護士の職務として特に重要なことは、「依頼者の方を当人の抱える法的問題から解放すること」であると考えています。弁護士にご依頼いただければ、裁判関係の対応や相手方との交渉などは基本的にすべて弁護士に任せられます。私は、弁護士として、皆さまが法的な心配をせず日常生活を送れるように、陰ながらサポートできる存在でありたいと考えています。

遺言・遺産相続の弁護士コラム一覧

遺言・遺産相続に関する
ご相談は何度でも無料です。

トップへ戻る